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ジャンゴ 繋がれざる者のhasseのレビュー・感想・評価

ジャンゴ 繋がれざる者(2012年製作の映画)
4.4
○「あの黒人は何者だ?」(ある黒人)

南北戦争前の南部での黒人差別という重いテーマを扱いつつ、マカロニウエスタンと白人に売られた妻を取り戻す冒険譚のフォーマットでもって、エンタメ作品に昇華した傑作。

黒人奴隷ジャンゴは奴隷制嫌いのドイツ人シュルツによって自由を得、賞金稼ぎに転身して白人を殺していく。

この映画を観ながら思ったのは、(タランティーノ映画なので当然頻出する)暴力というものも、白人の特権だったということ。黒人は白人により不当な暴力を受けても抵抗するすべを持たない。
農園領主カルビン・キャンディ(ディカプリオ)は言う、「奴隷の召使は毎日親父の髭をカミソリで剃っていたのに殺そうとしなかった」と。黒人は白人に従うことが当たり前であり、かつ、どんなに恨んでいても殺したところで明るい未来が開かれるわけではないという見込みがそうさせている。

この白人と黒人をめぐる構造的暴力に風穴を開けるのがジャンゴである。三兄弟を追ってやってきた農園で白人を射殺し、鞭で半殺しにするジャンゴを、驚愕の眼差しで見守る奴隷たちの姿が印象的である。賞賛や応援ではなく、驚愕なのだ。

ジャンゴの反逆の矛先は、白人だけではなく、彼曰く白人と同等に邪悪な存在である黒人頭(かしら)にも向けられる。キャンディの館でリベンジを果たしたジャンゴは白人を殺戮したあと、黒人を逃がすが、スティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)は許さず爆殺する。
彼はキャンディ家に三代仕えた老召使で、表向きはキャンディに過剰なまでにヘコヘコしているが、裏ではキャンディに対等に意見できる存在だ(キャンディもそれを容認している)。
黒人の召使たちを束ねつつ、キャンディの意思の代弁者として召使らへの罰則を率先して与える役割も担っている。謂わば館の陰の領主であり、その既得権益を墨守し安寧に暮らしたいがために同胞の黒人にたいして加害者に回ることも厭わない。
ジャンゴの言う通り、こういう中間的権力をもつ存在が実は最も厄介で、時に残忍になりうる。(アウシュヴィッツで罪なきユダヤ人を酷使したのは、ナチスの指示で動く同じユダヤ人のゾンダーコマンドだった)
シンプルな白人VS黒人の構図ではなく、白人ー黒人頭ー黒人という多層的な暴力構造を描いた点が素晴らしい。

クリストフ・ヴァルツ演じるシュルツの飄々としたキャラクターが魅力的。五年前まで歯医者だった彼が賞金稼ぎになった理由は不明だが、紳士的な振る舞いで口が達者な切れ者である一方、キャンディの暴言に静かにぶちギレるけっこう熱いヤツでもある。あと、馬車の屋根にバネ式でくっついてる謎のでかい歯がぶるんぶるん揺れてるのがなんか愛おしくなる。

これだけ万人向けのエンタメに仕上げながらも相変わらずのタランティーノ節も楽しめる。「ターゲットだと断定できるか?」「わからん」「わからんだと?」「断定の意味が」のくだりとか、シュルツが保安官殺しを軽快に弁明するくだりとか、クライマックスの銃撃戦でスローで血しぶき+肉片がはぜるシーンとか。

キャンディの館のバーカウンターで酒を呷るジャンゴの横に、かつてジャンゴというキャラクターを演じてきたフランコ・ネロが座り、ジャンゴが名乗って「頭のDは発音しない」と言うと「知ってるさ」と返すのはマカロニウエスタンファンにはたまらないシーンかも。

ラストはキャンディの館の爆破を背景に、すべてを終わらせたジャンゴが歩いてきて、それを「キャー素敵!」とばかりに手で口をおさえ、キラキラした目で迎えるブルームヒルダ(クソ可愛い)。二人が南北戦争を生き抜いて幸せに暮らすことは叶うことを願うばかりである。
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