なべ

返校 言葉が消えた日のなべのレビュー・感想・評価

返校 言葉が消えた日(2019年製作の映画)
2.9
 モータルコンバットの時も思ったが、ゲームの映画化は難しい。プレイすることを前提に考えられた脚本のおもしろさと、映画館の観客に向けた脚本のおもしろさが全く異なるからだ。プレイヤーの思い入れのあるシーンがプレイしたことのない観客に同じように感じさせられるかどうかも難しいポイントだ。プレイヤーと観客、どちらに比重を置くかで仕上がりは全く変わるし、どちらにも配慮して凡庸になってしまうこともあり得る。これはそんなリスクに挑戦した問題作。ちなみにぼくはゲームをプレイしていない側。なのでプレイヤーの評価はぼくとは大きく異なるかも知れないのでご了承を。

 前半はとてもよかった。台湾の白色テロ(蒋介石率いる国民党が反体制派を弾圧した恐怖政治)下の高校が舞台で、こっそり読書会を行う先生と生徒たちが主な登場人物。こっそりというのは、読書会をするだけで政治犯として投獄されたからだ。台湾では語られることのなかった時代の恥部をゲームに取り入れたことが高く評価され話題になったそうだ。
 弾圧、秘密の読書会、思春期の高校生…この3点セットが言葉少なにしっとり描かれてよくないわけがない!弾圧という恐怖要素が全体を覆ってるからホラーよりも圧の強い怖さが満ち満ちているしね。
 そんな中で悲劇が起こるのだが、この動機がなあ。せっかくここまで積み上げてきたディストピアな世界観もここで終わり。一気に愛憎関係の話へと陳腐化してしまう。瑞々しさを放っていた女子高生ファン・レイシンの演技がとても素晴らしかっただけに残念でならない。
 えー、そんな話にしちゃうの?ってところからさらに話は陳腐になり、本当のホラー表現になっていく。ホラーより怖かったのにありきたりな亡霊を出してどうする。おそらくこの辺がゲームの見せ場なのだろう。あーがっかり。
 先生の手紙の気持ち悪さも最悪な後味を残し、前半からは想像もしてなかったところへ着地して映画は終わる。
 人目を偲んで集まる高校生たちの切ない尊さと苛烈な弾圧の恐怖は、無惨にも毀損され、スキャンダラスな昼ドラみたくまとめられたのだった。
なべ

なべ