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罪と罰の一人旅のレビュー・感想・評価

罪と罰(1983年製作の映画)
3.0
TSUTAYA発掘良品よりレンタル。
アキ・カウリスマキ監督作。

殺人を犯した男の心の揺れを描いたサスペンス。

ロシアの文豪:フョードル・ドストエフスキー1866年発表の長編小説「罪と罰」をフィンランドの巨匠:アキ・カウリスマキが自由に翻案して映像化した心理サスペンスで、本作はカウリスマキの長編初監督作品でもあります。

食肉工場で働く孤独な中年男:ラヒカイネンを主人公にして、ある日の仕事帰りに実業家の男を突然射殺したままその場から立ち去った主人公の魂の彷徨を、偶然事件現場に居合わせていた若い女性:エーヴァとの邂逅&交流と、主人公を犯人と睨んで執拗にマークする地元警察:ベナネン警部との心理的駆け引きの中に映し出しています。

人殺しという重大な「罪」に向き合う主人公の葛藤と苦悩を描いた作品。自ら警察に捕まりたいかのように思わせる言動を示す一方で、いざ警察が事件の核心に迫ろうとすると巧妙な手口を使って逮捕から逃れようとする主人公の矛盾的な行動が、人間の内面における罪の意識と社会的な制裁=「罰」の狭間に置かれた主人公の心理的葛藤を浮き彫りにしています。主人公の過去や殺しの動機に係る詳細な情報の追求は本作のテーマとはもはや関係がなく、人を殺した事実に対する主人公の向き合い方を通じて“罰からは逃れられても罪からは逃れられない”という、社会(罰)から切り離れた一個人の心理に収束した決着を見ます。

本作以後カウリスマキと頻繁にコンビを組むことになるマッティ・ペロンパーが主人公の友人役として無二の存在感を放っていますし、社会の底辺に身を置く労働者階級を主人公とした作劇や、劇中挿み込まれる演奏シーン、表情の硬い登場人物等にも、お馴染みのカウリスマキ節を長編初監督である本作で既に確認することができます。
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