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プリズン・サークルのKUBOのレビュー・感想・評価

プリズン・サークル(2019年製作の映画)
5.0
今日は文化庁映画賞受賞記念上映会にて大賞受賞作『プリズン・サークル』を鑑賞。

素晴らしいドキュメンタリーだった。ちょっと信じられないくらいの、奇跡の瞬間を見せてもらった。

最初「日本で初めて刑務所内の撮影が許された」作品と聞いて「暗い映画だろうなぁ」と思っていたのだが、見始めて先入観は180度変わった。

まず施設がきれい。個室のカギが自由に開け閉めできないことを除いて小綺麗な宿泊施設のような明るく清潔感がある。さらに食事の配膳がロボットによる完全自動化されているのにも驚き。病院の食事のトレーがたくさん入っている配膳台が自動で独房の前まで移動してくる感じ。

ここは「島根あさひ社会復帰促進センター」。2000年代後半に設立された受刑者の社会復帰のための施設だが、この作品のテーマは施設のハコじゃなく、そこで行われている「TC」と呼ばれる更生プログラム。

刑務所の受刑者と言えば無口であることが予想されるが、本作の受刑者はしゃべる、しゃべる。この「TC」というプログラムは、受刑者がお互いに「話す」「聞く」ことで、今まで言えなかった、自覚できなかった自分自身を発見し、ひいては自分の犯した罪に向き合わせる。

サークルを作ってグループ内で自分のことを話すのは、アメリカのドラッグやアルコール中毒の人たちの集まりでよく目にするが、刑務所内でこれやってしゃべるのか(?)と最初はやはり懐疑的だったのだが、これが本当に胸に響く思いが吐露され、聞いていて彼らの過去の重さにこちらが苦しくなる。

DV、ネグレクト、いじめ、親に捨てられる。我々が普段「ひどいね」などと言って「映画」の中で見ているような現実がそこにある。だからと言って彼らが犯した罪が許されるわけではないのだが、少なくとも彼らの多くが生育過程にトラウマになるような辛い、異常な過去があることは確かだ。

また、この個々の独白のシーンを効果的にしているのが砂絵を使った独特のアニメーション。ややもすると暗くなりすぎる内容を見やすくし、ただかえって悲しく印象的にもしている。

そして私が一番驚愕した「ロールプレイ」の場面。受刑者がグループを作り、ひとりは自分自身である「加害者」、他のメンバーはその事件の「被害者」に分かれてロールプレイを行う。この活動で、加害者も被害者もお互いに涙するほど入り込んで語り合う。こういう教育プログラムにここまでチカラがあるのか! ヤラセじゃない、奇跡の瞬間を見せてもらった気がした。

ここまでの作品にするためにどれだけカメラを回し、どれだけの素材の中から編集されたのか。坂上監督の情熱には頭が下がる。

「むかしむかし、あるところに、嘘しかつけない男の子がいました」

作品のキーとなるこの受刑者の作った童話は、完全に受刑者自身の書いたオリジナルだそうだが、この「嘘しかつけなかった男の子」の明日へとつながる希望と共に作品は締め括られる。

たくさんのことを考えさせられる、素晴らしい作品だった。

坂上監督とは数年前、宮古島のパニパニシネマで前作『トークバック』の上映会でお会いして以来のご縁だが、当時から伺っていた刑務所にカメラを入れてのドキュメンタリーという構想がこのような素晴らしい作品となり、令和2年の大賞を受賞されたというのはうれしい限り。

12月5日からは文化庁映画賞大賞の受賞を記念して、ポレポレ東中野での上映会が予定されている。ぜひたくさんの方に見ていただきたい素晴らしいドキュメンタリーです。
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