うしぱんだ

プリズン・サークルのうしぱんだのレビュー・感想・評価

プリズン・サークル(2019年製作の映画)
4.5
配信でようやく鑑賞できた。
日本で唯一TC(回復共同体)を採用している島根の刑務所が舞台。登場する受刑者たちは丸坊主で顔にはぼかしがはいり、特に夏の制服はポロシャツにハーフパンツなので、成人しているのになんだかみな子どもみたいに見えた。
最初は犯罪を犯したために家族や周囲の人を失ったり,刑務所の非人間的なシステムに打ちのめされて、自分のことばかりで被害者のことなんか考えられなかったかれらが、今まで語ることのできなかった自分の子ども時代を語り人のそれを聞いているうち、封じ込めていた過去の記憶を思い出す。聞いているこちらが辛くなる話ばかりなのに、当人は悲しいと思っていなかったり、忘れていたりする。記憶というのは思いだしても耐えられる自分になったから戻ってきたのだ、と受けとめようとする登場人物の言葉に、成長を感じる。過去と向き合い辛かった気持ちを周囲に受けとめてもらって初めて次のステップに進んでいく。
ロールプレイの場面では、被害者役を演じる仲間からの容赦ない言葉にはらはらするが、これも同じ経験を持つ者同士だから成り立つのだろう(被害者役をすること自体も意味がある)。そういう意味で、刑務所だからできる教育プログラムなのだと思う。
観ている方は、子どもの頃に虐待やいじめを受けたかれらに感情移入し同情するけれど、TCの目的は更生であり再犯防止で、そのためには最終的に自分の加害者性に向き合わねばならない。
最初はあまりに罪の自覚の薄いかれらに正直ひいてしまうところがあったけれど、変っていくかれらの姿に希望を感じた(そんなに簡単じゃないというのは、幕間のように挟まれる出所者の方たちの場面からも伝わるけれど)。
最後に「暴力の連鎖を止めたいと願う全ての人へ」という言葉が画面に浮かび、本当にそれ!という気持ちになった。

この作品について、上間陽子・信田さよ子『言葉を失ったあとで』(筑摩書房)という対談集内に言及がある。私は先に読んでいて理解が深まったと感じている。興味がある方はぜひ。また監督による同タイトルの本も先日出たばかり。こちらはこれから読むつもり。

それから、この作品はドキュメンタリーで配給会社の方が「映画が終わっても、映ってる人の人生は続いている」とおっしゃっていた。顔を出して出ている方もいる。かれらの生活が脅かされることのないようにするのが、観た者の守るべきモラルだというのを忘れないようにしたい。