藍紺

プリズン・サークルの藍紺のレビュー・感想・評価

プリズン・サークル(2019年製作の映画)
4.6
島根県にある官民協動の刑務所で行われている再犯防止の取り組み、TC(回復共同体)という欧米で1960年代から始まった更生プログラムを採用し、受刑者とそれを支援するスタッフのドキュメンタリー。
ずっと観たかった作品で配信を知って即購入。今年一番観てよかった映画。
主に4人の受刑者にスポットを当てて話が進んでいく。自らの子供時代をお互いに話し合うのだが、その家庭環境の劣悪さに絶句。文字通り地獄のような生活を送っている子供たちを思うと胸が苦しくなって鑑賞するのも辛いほど。虐待や性暴力、いじめなどを受け続けたことでその辛さから逃れるため、それを他人事のように捉え(解離性同一性障害みたいな症状)、自分を守るため感情が動かなくなっている受刑者。それによって被害者の痛みも感じにくくなっていて、自分も辛かったんだからこれくらいの加害はいいだろうという思考に陥っているのだ。これでは再犯率が下がるわけがない。
「被害を被害として気持ちの処理をしておかないと、自身の加害行為を加害行為として向き合うことができない」というある支援者の言葉が忘れられない。ソーシャルアトム、様々な対話療法など丁寧なプログラムを重ねていくにつれ、対象者がどんどん人間らしい心を取り戻していくのが目に見えて伝わった。特に受刑者同士が加害者、被害者の役割を振られてその人の気持ちになって意見を述べ合うロールプレイはとても効果的で、彼ら自身が被害を受けることの辛さや悲しみを理解していく様は感動的。対話の重要性がよくわかる作品になっていた。実際にこの刑務所を出所した受刑者の再犯率は、他の刑務所と比べ劇的に改善しているとのこと。

坂上香監督は今作を撮るにあたり犯罪者のプライバシーの問題や撮影の制限など困難な問題が多々あったと思うが、本当に完成させてくれてありがとうございますと伝えたい。回想シーンを若見ありささんの砂絵のアニメーションで表現してるのがとてもピッタリだった。辛いシーンもたくさんあるけれど是非多くの人に、特に未成年の若い方に観てほしいなと思う。
藍紺

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