タイレンジャー

リチャード・ジュエルのタイレンジャーのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.0
本作はポール・ウォルター・ハウザーという俳優にリチャード・ジュエルの役を演じさせたという点が何よりも大きな成功だと思います。しかも100%確信犯的な配役の意図が伺えます。

爆弾の第一発見者で民間人の避難を誘導した「英雄」である警備員、リチャード・ジュエルはFBIのお粗末な対応によって容疑者に仕立て上げられ、メディアは手のひら返しで彼を糾弾する、というお話ですが、ポイントは怪しまれてしまいそうな要因がリチャード自身にもあったということです。

「警官に憧れる人物ほど自作自演の事件を起こしやすい」パターンに当てはまってしまったこと、正義感ゆえに前職での行き過ぎた言動などなど。展開上、リチャードの無実を知っている観客でさえ「こりゃー疑われるかもしれないよね」と思ってしまうほどです。

同時にマスメディアや一般大衆の心理に潜在的にあるのが「リチャードの見た目が怪しい」という身も蓋もないものであったことも事実だと思いますね。本作の中でも彼の容疑者説を最初に報じた女性記者が「彼は母親と暮らす醜いデブよ」と言い放つことからもそれは明らかです。

警官に憧れるマザコン気味の(世間から認められてないであろう)デブが英雄になりたくて、自分で爆弾を仕込んだのでは、と疑念を抱いてしまう人間の恐ろしさよ・・・。「人は見た目が9割」というのは決して間違いではありません。

そんなリチャードを演じたポール・ウォルター・ハウザー(以下、PWH)もまた、肥満体でしかめっ面を浮かべた「好印象とは言い難い」容姿の俳優です。何よりも『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』で彼が演じた自称・元諜報活動員のイカれたニートの役の印象が強烈であり、それがそのままPWHのイメージに繋がっている映画ファンも多いのではないでしょーか。

なので、『アイ, トーニャ』を観たことがある映画ファンからすると、PWHが出てきただけで「コイツが犯人だ!」という先入観がうっすらと脳内を支配するのです。それはまさに「リチャードが怪しい」とマスメディアと一般大衆と似た心理が作用する、ということですね。

そんな観客の先入観もあってか、実際にかなり危なっかしいリチャードの言動は本作の中盤以降においてコメディ的に変調していきます。もちろん展開上はシロだと分かっていても「いやいや、PWHだからやっぱりクロかもよ~」なんて思えて笑いがこみあげてきます。

本作はPWHの持ち味を最大限に活かしており、彼の存在が重くなりがちな題材にややブラックな笑いを付加していますね。結果として作品としてのバランスもうまく保てた印象です。