エソラゴト

リチャード・ジュエルのエソラゴトのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
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決して他人事ではない

今作鑑賞後、真っ先に思い浮かんだのはこの言葉。

そして脳裏をよぎったのは今作の舞台アトランタ・オリンピックの2年前にここ日本で起きた松本サリン事件により引き起こされた冤罪・報道被害。第一通報者を容疑者扱いしたマスコミ報道が過熱の一途を辿る様をまだネットやSNSもなく新聞やテレビによる報道のみを頼りにしていた時代にリアルタイムで追っていたのを記憶しています。

気になって鑑賞後にネットで当時の経過や顛末を調べてみると、警察関係の捜査の甘さやマスコミの杜撰さ等今作と酷似している部分が多々あり、冤罪が生まれる仕組みや温床が浮き彫りになり改めて怒りと憤りを覚えました。

しかしながら、いつ自分がそういった事件の第一発見者や第一通報者になるかなんて誰にも分からないし、このような最悪な事態に明日突然見舞われる可能性が無い訳でもありません。他人事ではない、明日は我が身…果たして自分は今作の主人公のリチャードのように立ち振る舞えるのか?誰にどうやって助けを求めたら良いのか?果たして親身になって助けてくれる人はいるのか?…常に自問自答しながらの鑑賞はとてもきつく胸を締め付けられる思いでした。

そして今作の主人公は題名通りリチャード・ジュエル本人なのは間違いありませんが、真の主人公は彼の母・ボビだったのではないかと個人的には感じました。誰よりも息子の無実を信じ、誰よりも息子の身を案じ、そして誰よりも息子を愛していた彼女。思いの丈を息子にぶつけるシーン、取り乱すでもなく穏やかに心情吐露する記者会見のシーンはキャシー・ベイツの名演もあってとても強く心打たれました。

そして終盤リチャードがFBIの捜査官に向かって静かにそれでいて力強く発する主張はぐうの音も出ない程の真っ当な正論であり、こちらの溜飲も大いに下げさせてくれました。

" Do the right thing "

正しい行いをする事は国籍も人種も年齢も性別も何もかも関係ありません。自分もそうでなくてはと強く意識させられる作品でした。


追記:
御年実に89歳!…今作で40本目の監督作品となったクリント・イーストウッド。ここ近作はほぼ実話を基にした作品の為、エンドロール前には後日談が挿し込まれるのはお約束となっています。事細かな説明や登場人物の近影の他、時にはご本人登場といったサプライズな演出も彼ならではでしたが、今回に至っては思いの外シンプル。ほんの数行のテロップでしたが、エンドロール中に頬に涙が伝うくらい今までで一番ジーンと来るエピソードでした。