こなつ

ひとつの太陽のこなつのレビュー・感想・評価

ひとつの太陽(2019年製作の映画)
3.8
第56回金馬奬(台湾・中国圏の映画賞)で作品賞など5冠に輝いた2019年の台湾のヒューマンドラマ。

ずっと気になっていた作品を鑑賞。

冒頭から衝撃的な映像が流れるが、物語はある一つの家族を静かに追っている。少年犯罪、未成年の妊娠、家族の不器用な愛情、普通の家庭に起こる様々な葛藤。親の過剰な期待や失望を受け止められず、揺れ動く若者たちの姿を通し、親の心情、子供の苦悩を丁寧に描いている作品。

チェン家の次男アーフーが事件を起こし、少年院に送られた。自動車教習所の教官をしている父アーウェンは、問題児のアーフーを完全に見放し、医大を目指す優秀な長男アーハオに期待を寄せる。美容師の母はどちらの息子にも同様に愛情を注いでいて、夫婦の間には諍いが絶えない。ある日、アーフーの子を妊娠したという15歳の少女シャオユーがチェン家を訪れる。さらに追い打ちをかけるように、突然の悲劇が家族に降りかかる。

優秀な兄と比較され、父親の愛情が兄に向いている反発で非行に走る弟。反面、親からの過度な期待に押し潰されそうになる兄。自分の職業に劣等感がある父親は、医大を目指す兄アーハオに異常な期待を寄せる。頑固で偏屈で愛情表現が不器用な父親の姿が哀れだが、母親の逞しさには救われる。

「太陽は万物を公平に照らす」「この世で一番美しいのは太陽だ」という兄アーハオだったが、常に父親の期待を一身に背負い、太陽の下を歩いていなければいけなかった彼は、日陰で休めない自分の宿命が辛かったろう。時には光から影に逃げ込みたかったのではないだろうか?司馬光の水かめの話に胸が痛くなる。

決して裕福でない中流家庭の物語であり、そこには痛みや切なさが生々しく描かれていた。そんな父親が最後に必死で次男を守ろうとした衝撃的な事実に心揺さぶられる。

光を浴びながら自転車に乗る母親と次男のラストの姿が何とも温かく、全体的に重い内容だが見応えのある作品だった。
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