たく

ひとつの太陽のたくのレビュー・感想・評価

ひとつの太陽(2019年製作の映画)
3.8
四人家族の揺れ動く関係性に人間味が溢れる台湾映画。正反対の性格を持つ息子のうち出来の悪い方が残っちゃうとか、息子との接し方に戸惑う不器用な父親など、良くある家族関係を丁寧に描いててジーンと来た。ギャグ演出のバランスも絶妙だったね。

冒頭でいきなり残酷なシーンが出てきて呆気に取られるところから、事件の当事者であるアーフーの少年院での生活と、彼の兄で医者を目指すアーハオ、教習所の教官の父親、クラブのスタイリストの母親の生態が描かれていく。父親が周囲に家族のことを説明する時に「息子が一人いる」って言うのがミスリードになってて、このおかげでアーハオ登場シーンがアーフーが不良になる前の過去の回想なのかと勘違いした。これは父親とアーフーの関係性を見てれば何となく分かることだったね。

アーフーが少年院に入所したての頃に、しきたりに従わず古株の屈強な男に立ち向かう果敢さが「マスクガール」のモミを思わせるんだけど、だったらなぜ彼がツァイトウにあんなこと(アーフーが少年院に入る原因)を依頼したのかというのが引っ掛かった。中盤であっと驚く出来事が起きて、誰からも愛される聖人のような人が、実は誰にも本心を見せることができなかったというのが哀しい。

結婚して少年院を出たアーフーの入籍手続きの時に役所の人が景気付けのクラッカーをお役所仕事的に鳴らしたり、慰謝料の支払いを拒否し続けるアーフーの父親にバキュームカーで対抗する被害者の父親のユルいギャグ演出に笑った。このあたりまでの喪失からの立ち直りにほのぼのしたところで、まさかのツァイトウの再登場に不穏な空気が漂う。アーフーの社会復帰を阻むツァイトウに対し、今まで息子を避けてた父親が取る行動に「パワー・オブ・ザ・ドッグ」を連想して心が震えた。さんざん夫のアーフーに対する不作為を攻めてきた妻も、これにはさすがに慟哭せずにいられないよね。
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