むさじー

はなれ瞽女おりんのむさじーのレビュー・感想・評価

はなれ瞽女おりん(1977年製作の映画)
3.6
<盲目の芸人がたどる悲恋の旅路>

大正期。盲目の女旅芸人おりんは山間の阿弥陀堂で平太郎という謎の男に出会い、地蔵堂などを泊まり歩く奇妙な二人旅が始まる。やがて平太郎は作った下駄を縁日の露店で売るようになるが、土地のヤクザとのいざこざで留守の間に香具師仲間におりんが関係を迫られ、平太郎が激昂し男を殺害する。平太郎は殺人犯として追われ、それとは別に脱走兵として追われる身でもあった。
原作は未読だが、岩下志麻演じるおりんのキャラは純粋で明るく、時に女性の色香を漂わせ毅然と生きていく美しい女性。水上勉にしては淡白すぎる気がして、背負った影の部分があまり感じられず、目が見えないゆえに肌の温もりを求める、そんな女の情欲、情念があまり感じられない。
『心中天網島』の遊女小春の時には、世間のしがらみに抗えず死へと向かう女の情念がしっくり表現されていると思えたが、それは人形浄瑠璃の実写版というあくまで虚構の世界だったからか。
本作はもっと複雑でリアルだ。盲目ゆえに男に襲われたら拒む、逃げる術がない。運命的な諦観から開き直るかのように生き抜いていくたくましさ、そんなものが見えたらと期待したが、この頃の志麻さんはあまりに儚げで美しすぎた。そこに魅かれるものはあるが、惜しまれるところでもある。これを新藤兼人と音羽信子、増村保造と若尾文子で撮っていたらと、つい想像してしまう。
光るのは宮川一夫のカメラ。大正時代の日本の原風景を求めてロケ地を探し回ったとのこと、雪深い山里や荒れ狂う海を見事に切り取っている。これだけでも観る価値はある。
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