かずぽん

サン・フィアクル殺人事件のかずぽんのレビュー・感想・評価

サン・フィアクル殺人事件(1959年製作の映画)
4.0
【メグレ警視の故郷 サン・フィアクルにて】


監督:ジャン・ドラノワ(1959年・仏・97分・モノクロ)
原作:ジョルジュ・シムノン『サン・フィアクル殺人事件(1932年)』

メグレ警視(ジャン・ギャバン)は、サン・フィアクルの村に帰郷する。実に40年ぶりのサン・フィアクルだった。違うシーンでメグレ警視は「私が13歳でこの村を出て…」と言っていたので、メグレ警視の年齢は53歳なのだと分かった。
メグレが故郷に帰って来たのには理由があった。彼が幼い頃に憧れていたサン・フィアクル伯爵夫人(ヴァランティーヌ・テシエ)から助けを求める手紙を受け取ったからだ。伯爵夫人の元には「懲罰の鐘がなった。おまえは聖杯の日に死ぬ」と書かれた脅迫状が届いていたのだった。

先代の伯爵(夫人の夫)は既に他界していて、今は息子のモーリス(ミシェル・オークレール)が爵位を継いでいたが、彼は現在パリで暮らしていた。伯爵邸は、古めかしくて立派でかなり大きな館だった。、メグレの父は生前、この館の管理人として誠実に仕えていたようだ。メグレは一階にある広間や図書室などを見ていたが、壁には、かつてそこに沢山の絵画が飾られていたであろう痕跡があった。
秘書のサバチエ(ロベール・イルシュ)の説明では、(メグレは古物商として紹介されていた)高価な美術品や絵画、初版本はもう残っていないという。(息子)モーリスの放蕩と浪費のせいらしい。
翌朝、メグレが目を覚ますと、夫人はミサに出かけた後だった。メグレは急いで教会に行ったが、その時は夫人はまだ元気だったのに、次に夫人の席に目をやると息絶えていたのだった。脅迫状の予告通りになってしまったが、死因は心臓発作だった。これは偶然なのだろうか?

メグレは、関係者を一人一人訪ね歩き、彼らの言葉や行動に矛盾はないか?夫人が亡くなって得をする人物は誰か?加えて伯爵邸の資産状況、金銭の動きなど、彼の観察力、洞察力を駆使した捜査が始まる。そもそもモーリスが死んだと新聞社に報せたのは誰なのか。まだ、サン・フィアクルに届いていない新聞を果たして夫人は観ることが出来たのだろうか。ハッキリ言って夫人の周囲の人物は怪しい者だらけだった。

村には昔の彼を覚えている人物が沢山いて、メグレがサン・フィアクルを去った後のことを色々と聞くことが出来た。伯爵家も今は落ちぶれてしまって館が抵当に入れられていることや、土地や沼までも二束三文で手放したらしいことも分かった。
メグレの捜査の仕方が詰問調ではなく、世間話のように何気なく、気前よく酒場で奢ったりするのも意外だった。そうやって犯人の目星がついた所で、彼は館に関係者全員を召喚する。
集められた中にはサバチエの弁護士もいて、犯人ではないのだから召喚という言葉は使わないで欲しいと抗議する。しかし、メグレは断言したのだ。「召喚したこの中に犯人がいる」初めてメグレの声色が変わった。

犯人が分かった時は、その意外さに驚いた。確かに劇中、多少怪しくはあったけれど、メグレ警視に協力的だった上、誠実でお堅い人物に見えていたのだ。メグレが犯人を追い詰める理路整然とした根拠・理由は、観ていて気持ちが良かった。

先日鑑賞のジェラール・ドパルデューが演じるメグレ警視も堪能したが、どちらも渋みのある中に人情味を滲ませ、心優しい警視を好演していたと思う。
私には馴染の薄かったメグレ警視だったけれど、メグレ警視シリーズの人気の理由が分かった気がする。
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