むさじー

羊飼いと風船のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

羊飼いと風船(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<国策と信仰が家族の暮らしを変えていく>

辺境の地チベットにも、国策の一人っ子政策や近代文明の波が押し寄せるが、現代でも牧畜という地道な暮らしを営み、「魂は死なない」という輪廻転生を信じている。そこに想定外の妊娠という事件が起き、産むか否かで葛藤し、平穏な日常が崩されていく。
男性や信心深き者は転生の神聖さを重んじて「堕ろすのは罪」と言い、貧しい暮らしの中で忍耐を強いられている女性は、家族の生活を最優先したいと願う。それぞれの思いが交錯して、家族の有りようが揺らいでいく。
事の発端がコンドーム風船で、子どもの遊びと大人の都合の対立と見るとどこか滑稽であり、国策と生活の衝突と見ると息苦しくもある。
強く感じるのは“あえて描かない”ことで想像を煽る、抑制された物語であること。尼僧シャンチェが仏門に入るまでの過去を具体には語らず、ドルカルが堕胎したのか否かも明かさず、彼女の行く末も謎のままだった。監督は映画としての結論づけをせずに、観客に判断を委ねたと語るが、中国の厳しい検閲への配慮もあるのだろう。
ラストシーン、赤い風船が一つはすぐに割れ、一つは空に飛んでしまうという、どこか意味深なエンディングだったが、“赤い国”と結びつけるのは考え過ぎだろうか。
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