いろどり

羊飼いと風船のいろどりのレビュー・感想・評価

羊飼いと風船(2019年製作の映画)
3.9
チベットの壮大な自然と牧歌的な生活を垣間見る心温まるドラマではなかった。今(一人っ子政策下の時代)を生きるうえで向き合うべき問題と慣習の狭間で、それぞれの価値観の中で揺れ動く人びとをユーモアを交えて叙情的に映していて見ごたえがあった。

生は性であり決して切り離せない。
描かれる夫婦は男性らしさマックスの夫と性の話になると10代の少女のように照れて向き合えない妻。

夫は昼も夜も男らしくマッチョ。妻が自分の意見とは違うことを言ってくれば手が出る。家父長制における典型的な男性像だった。
チベットの人たちは伝統を隠れ蓑に性を恥じて向き合おうとしない姿が印象的だった。

新しい命を迎えるかどうかはファンタジーで済ませられない問題。
命が増えることは生活に直結する。

そこにチベット仏教の転生の概念が入ってくるからもうややこしい。

家父長制の中で虐げられてきた妻も立派な母親。
夫の言う通りにばかりしていられない。
男性優位な社会(夫婦関係)の中、妻として、母親として、女性として自分の意見を持ち自立していく姿に希望が見えた。

偽物の白い風船で始まり、色のついた本物の風船で終わる。

中国という国に属する民族として、民族の伝統や時代とともに変わりゆく男女の価値観に翻弄される素朴なチベット人たちの心の機微を美しく描いていて良いなと思える映画だった。
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