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羊飼いと風船のodyssのレビュー・感想・評価

羊飼いと風船(2019年製作の映画)
2.5
【ヒロインの行動に納得が行かない】

チベットで牧畜をして暮らしている一家の物語。
前半は夫婦と三人の子供からなる一家(ただし長男は学校が家から遠いので寄宿しているよう)が山羊を飼育する様子だとか、一家の叔母(妻の実妹)の抱えている微妙な過去だとかが、急ぐことなく、独特のカメラワークを活かしながら展開されていて「まあまあかな」と思えたのですが、後半、或る事件で妻が・・・というあたりから迷走状態になってしまい、作品の後味も良くありません。

ネタばれになるので詳細は省きますが、監督に計算違いがあったとしか思えない。
まず、チベットがその一部である中国の政策がある。
次に近代的な教育を受けた女医の見解。これは実は中国の政策とも一致している。
それと牧畜で暮らしていてチベット仏教を奉じている一家の価値観が微妙に合わない。

そんな中で妻の取る行動がどうも唐突に思えてしまう。
チベットにも「新しい女」がということなのかも知れないけど、それならそれで伏線が必要だし、事態には彼女自身にも責任があるわけだし(ある品物の管理不行き届き)、よく分からないのは、中国が一定の政策を掲げているのにそれに必要な品物を量産していないという設定であることです。戦後間もない頃の中国ならいざ知らず、今や「世界の工場」であるはずの中国なのに。

つまり、監督は西側の映画を意識して妻を設定したつもりなんでしょうけど、バックが全然合っていないので、観客には納得感が生まれないんですね。

むしろ、妻の妹(一家の叔母)の人物像ほうが説得的。彼女の負った傷は、「政治的正しさ」を基準にすれば「被害者」以外の何ものでもないけれど、人間同士の問題においては政治的にどちらかを完全な悪者とすることには無理がある、ということに、彼女自身気づいていくわけですから。

或いは、最初や最後の「風船」のシーンから連想されるような、喜劇的なメルヒェン・タッチの作品として収めておけば、まあまあの線で行ったはずだと思う。

その辺で、失敗作じゃないかと思いました。
前半がまあまあなので、点数はこの程度にしておきますけど。
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