なべ

ジェントルメンのなべのレビュー・感想・評価

ジェントルメン(2019年製作の映画)
4.6
 おかえり、ガイ・リッチー。

 長かった。ほんとに長かったよ。いつになったら撮りたい映画を撮ってくれるんだとずっと待ち続けてた。ぼくに言わせりゃシャーロック・ホームズもアラジンも営業でいやいや撮った作品(私見です)なんだもん。
 ロック、ストック&2スモーキングバレルズを観て以来、ずっと待ち焦がれていた暗黒街の群像劇、いや、したたかなワルどもが出し抜き合う暴力的コンゲームがついに帰ってきたーーー!

 マシュー・マコノヒー演じる大麻王ピアソンが引退するので“事業”を譲渡したいってのが事の始まり。ビリヤードのオープニングブレイクショットのように、このきっかけが的球を散らし、それぞれが幾何学的に作用し合い、いろんな立場の悪党どもが思わぬ方向に転がっていく。
 ああ、これこれ!この感じ。「陽気なギャングが地球を回す」や「グラスホッパー」にも通じるあの独特な感覚。伊坂幸太郎が好きな人はぜひ観るといいよ。

 キャスティングの妙味もガイ・リッチー!マシュー・マコノヒーの地頭のいい存在感がピアソンをイケてる大物に見せてる。ピアソンを支える右腕レイモンドが物語動かす手球なんだけど、チャーリー・ハナムがいい塩梅なのよ。サンズ・オブ・アナーキーのジャックス以来のアタリ役というか、ほら、チャーリー・ハナムっていろいろ出てる割にたいして印象に残らなくて、淡白な印象ない? 良心が感じられる拗ねた少年っぽい丸顔のせいだと思うんだけど、今回は髭と眼鏡でそれを隠したのがよかったのか、聡くて強くて頼もしいキレ者役をモノにしてた。
 クズな探偵をヒュー・グラントが演じていて、これもまた妙にハマってる。年配の娼婦とカーセックスしてて捕まったしょっぱい過去となんとなく繋がってるようなせこい役どころがピッタリなんだよなあ。バラバラの出来事をこの探偵に一本化したのもうまい。時系列に沿って話してくれるので(要所要所で妄想付き!)、わかりやすいことこの上ない。
 特筆すべきは唯一まとも(全然まともじゃないんだけど)なボクシングコーチのコリン・ファレル。クセの強い役どころをそれはもう魅力たっぷりに演じてくれてて、誰もが「好き♡」って思っちゃうから。悪党どもの中でも異彩を放っていて、彼の存在がまたこの作品を特別なものに引き上げてる。

 軽妙だけど底意地の悪い語り口の心地いいこと。一応米英合作だけど、見る人を選ぶ一筋縄ではいかないエグ味は紛れもなく英国もののそれ。人物の内容を深めたり、成長を描くのはダサいって気骨あふれるロンドンの下町気質がたまらない。いいわあ。誰一人成長しねえw そりゃそうだ、懲りない奴らの話なんだから。
 ロック〜に比べて、よりヤバ味、皮肉味、円熟味を増した極悪ガイ・リッチー風味を堪能してほしい。
 Blu-rayは買うつもりだが、その前にもう一回観たい!
なべ

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