晴れない空の降らない雨

春江水暖~しゅんこうすいだんの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

4.2
 ホウ・シャオシェンや特にジャ・ジャンクーの影響を濃厚に感じさせつつも、より自然体でまろやかな口当たりが好感度高い傑作だ。川沿いの都市の大変化を長回しでとらえると聞けば、もちろんジャ・ジャンクーの名作『長江哀歌』を思い浮かべるが、先輩の突き放した視線とは違い、本作は人物を見る目にも温かみがある。これは題材においても言えることで、ジャ・ジャンクーが人間関係の移ろいを見つめるのに対し、グー・シャオガン監督はあくまで経済力学による紐帯の分解に抗うかのような家族を主人公に据えている。これが疲れた心には程よい。
 川の向こう岸に大回りして乗船する若いカップルや、偶然同じエリアをデートしている2組のカップルを巧みにフレームに収めた長回しは印象深いが、ちょっとわざとらしさはあるか。前者では、釣りや水泳など人々の営みが背景に活写されているのが楽しい。
 本作の大きな魅力として、現代中国の生活や社会問題を具体的に映し出していることが挙げられる。あの川辺のシーンはその象徴でもある。あそこは明らかに元代の山水画『富春山居図』(1350)を意識しており、この黄公望の代表作は劇中に登場する上、本作の英題にも採用されている。この選択そのものが、中国における現代化と伝統の葛藤を表したものである。映画は、定点観測のように1年を見つめ、変わるものの中に変わらないものを見極めようとする。