Kawaguchi

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編のKawaguchiのレビュー・感想・評価

1.6
ハイコンテクスト化への反動

結論から言えば、わたしにこの作品は合いませんでした。
思ったことを全て話してしまう優しさ(ここでは優しさにします)・必殺技意外動きのない画が、ノイズで見ていられませんでした。映画って、言葉には表せない思い気持ち、人生の機微みたいなものを撮影と編集によって表現するアートフォームだと思っているからです。

しかし、これは2010年代後半から加速度的に高まっている作品の過度なハイコンテクスト化からの反動ではないでしょうか。

2020年 デビット・フィンチャーの「マンク」を筆頭に「シカゴ7裁判」「ウォッチメン」、去年であれば「ワンスアポンアタイムインハリウッド」など、作品で描かれている事象や背景を知っておかなければ、話についていけさえしません。具体的に書くと、マンクは1941年のオーソン・ウェルズの市民ケーンとその作品が作られた背景、シカゴ7裁判であれば、ニクソン政権が誕生し、泥沼のベトナム戦争に突入していくアメリカ情勢、ワンスアポンアタイム〜は1969年に起こったシャロンテート事件とカウンターカルチャーの終焉を知っていなければ、そもそも楽しめません。

鬼滅の刃(愛の不時着もですね)のような、優しく丁寧に台詞で説明されている作品が日本でヒットしたのは必然だったとすら、思います。

最後に、誰に対しても優しく、正しいキャラクターをファンタジーの世界に求めるのは、現実の世界にそういった人がいなくなってしまってからではないでしょうか。信用できない政治、分断された世界。私は映画には、愚かな人間を描いて欲しいんです。常に自己批判的であって欲しい。それは世界が健全である証だから。
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