にくそん

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編のにくそんのレビュー・感想・評価

3.9
原作は未読。テレビアニメは全話見た。煉獄さんのまっすぐさがまぶしく、鑑賞後とてもすがすがしい気持ちになった。煉獄さんは父親が「柱」で自身も生まれつき戦闘の才能に恵まれた、いわば戦闘貴族で、母親から教え諭されるノブレス・オブリージュ的な考えを素直に大事にしている。ノブレス・オブリージュって賛否あるけど、自負と使命感を強く持っている人の姿は美しい。禰豆子のことも、煉獄さんは偉い人に言われたからではなく、情にほだされたからでもなく、自分が見たもので判断して、信じることに決めている。そのシンプルさに惚れ惚れ。

劇場を出ると、しょうもない情報を山ほど仕入れてちょっとでも自分が得しようっていう態度の人がスマホに文字通り鼻づら引き回されるようにして歩いている。私も精神的な態度がそうなる日も多々あるから、煉獄さんや炭治郎の生き方はやけに沁みるものがある。もしこれが30年前ならヒットしなかったのでは、という気もする。自分がなくしそうなもの、社会から失われつつあるものが描かれているから惹かれるんじゃないのかな。

煉獄さんの状況判断の速さや仕事の分担量の多さなどに炭治郎が感心するさまは、一瞬お仕事ドラマを見るような感覚になった。「わたし、定時で帰ります。」とか「東京デザインが生まれる日」とか。炭治郎たちがヒーローであるのを忘れて、もっと普遍的な、職場のエース格の先輩と期待の新人を見るようで、こうだから大人が鬼滅から何か持ち帰ろうという気になるんだなと思った。

音楽も映像も綺麗なので、これは確かに映画館で観たほうが楽しめる。戦闘シーンのスピード感、躍動感が気持ちいい。炭治郎の心の中は特に力を入れて美しく描かれていて、感心すると同時に、主人公の心の美しさをそのままビジュアルの美しさで表現しているところに笑いがこみあげてきた。そんな表現あるんだ。かわいい。

ただ、ストーリー構成にはちょっと不満。予告編では劇場版のラスボス風に幅を利かせていた魘夢が、背景も戦闘力も弱くて迫力不足。その魘夢のシークエンスとまったく関係なく、最後に上弦の鬼の猗窩座が急にやってきて映画のクライマックスがそこですっていうのはなんだかな。だいたい下弦の鬼って、鬼舞辻にとっても作品にとっても要らない子なのでは。炭治郎たちがステップアップするための、ザコ鬼と絶望的に強い上弦の中間にちょうどいい鬼をご用意しました感がいただけない(累は面白かったけどさ)。

ところで裸イノシシがかわいかった。脈絡ないけど、これはメモしておかねば。
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