シネマスナイパーF

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編のシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

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こんだけ売れてるコンテンツに下衆な商魂のようなものが感じられないことにまた泣かされる
新参への説明用のダイジェストも無ければ、流行りのポストクレジットも無く、次シリーズの告知すらせずに綺麗に終わる潔さ
いや、そんなもん無しでも大大大ヒットさせられるぐらいのブームだし、それに甘えることができたってのもあるとは思うけど、この無限列車編を一本の映画として、ひとつの作品として成り立たせようとするその気概に天晴れだった

無限列車に乗る直前で原作読み進めるのを止め、何も知らない状態で臨んだので、映画的演出のための改変などがあったとしてもそれに関して語ることは出来ないため、物語、展開含めた全てがこの映画に対する感想になります


実は初めから死の匂いプンプンだったんですね
墓場なんてあまりにも露骨すぎる
とはいえ、こういう話のこういう映画だと言うかのように、アニメーションとしてとても美しい画でもあった
結末の暗示でありながら、クライマックスの煉獄の言葉とも呼応しているんじゃないかな
このくだりが原作にあろうと無かろうと、この映画のオープニングとして用意したことがまず素晴らしい

無限列車というネーミングに何かこう…感じちゃうよね
吾峠先生天晴れ!
人間は有限で、薪をくべて燃やし続ける列車と同じように終着点=死が待っている
列車が前に進み続けるように、夜が明けるように、何事も不可逆であり、それは命も同じわけですね
進み続けるしかないわけです
対する鬼は、進むことを否定し留まることで、悪い意味で無限の立場となり、終着点を捨て、夜明けから逃げることを選んだ存在
そう考えると、この無限列車編は非常に象徴的な物語だなと思う
無限と名の付いた列車を食い止める過程で、様々な形で命は有限なんだと繰り返し伝えながら、改めて有限の存在である人間こそ美しい、と言い切ってみせる壮絶な戦いの果てに訪れる夜明けにおいて、人間と鬼の迎えるそれぞれの物語的結末が本当に分かりやすく、且つこれ以上なく美しく対極
終着を受け入れ、夜明けを受け入れる強さを持つ人間は素晴らしいというこの物語の核の体現者となる男による言葉には、そりゃもう泣きに泣かされる
身内や友人の死が道中に待っているかもしれず、終着点には必ず自分の死が待っているが、悔しさや無念、不甲斐なさを糧に、心を燃やし続けることで、その炎で誰かを守ることができるはず
鬼滅の刃という作品において無限列車編は、一本の劇映画として勝負するにあたりこれ以上ないエピソードだった
今も泣きそう

道中の夢も、不可逆である家族の死を炭治郎が受け入れ、文字通り前に進み出す心の成長として、自らがその死に抗うために人間へ死をもたらす鬼という存在を否定するためのドラマとして、非常に見応えがありますね
新参向けのダイジェストがないと前述しましたが、この夢パートが少年隊士三人についての説明の役割を担っている
煉獄に関しては「守ること」が核
父はとにかく愛する全てを死から守りたかったんだろうね
柱になろうとも、鬼以外からもたらされる死は食い止められなかった無念を、杏寿郎は理解していたのかもしれない
それでも、自分自身の手で誰かを守ることを選び、道中で大切な何かを失おうとも心を燃やし続けた
決して幸せそうには見えない夢だけど、彼の人格形成において超重要な出来事だったんだろうな
自分が来たからには誰一人死なせないという責任感が、この思い出ともうひとつ大事な思い出によって形成されていただけに、彼の言葉の重みは凄まじいな

オイ鬼さんよ無機質と融合ってどういうことやねんと思いましたが、そもそもアイツは情もクソもないスーパー鬼畜野郎だから確かに冷たい無機質と相性はいいかもと思えました
触手的な肉塊は、動かしやすいからという以上に、シンプルなキモさと異物感とこれまた無機質な感じがCGの質感と合ってて良かったと思います


やはり、映像にするからには空間的なアクションを見たい
鬼滅の刃は原作を読んだだけでアニメシリーズ未見だったので、動く戦闘シーンも楽しみでした
アニメーターの方々も列車はちょっと狭いなと踏んで多少通路の幅を誤魔化したり工夫をされているそうで、その甲斐あって逆に狭さを活かした迫力を感じました!!
列車の外に出て伊之助と共に魘夢の首を狙う際も、上下の空間を感じさせて楽しかった
煉獄さんの炎が一度前に走るエフェクトからの斬撃がたまらないね
クライマックスの完全野外戦は圧巻で、アニメじゃなきゃ持たないような熱量
アニメなら実写で出来ないようなアクションが出来るけど、同時に実写では数秒で終わせないとダレるシーンを良い意味で長引かせることもできる利点があると改めて感じた次第で、特にラスト近くはそんな熱のある時間が長かった


オリジナルストーリーではなく、完全に続き物の途中の映画化にも関わらず、前提知識が必要とは言え、一本の映画内で描きたいメッセージを出し切っていることが本当に素晴らしい、これに尽きます
そう作れてしまう原作が優れているとも言えちゃうんだけども
もちろん、夢で家族を置いていくくだりで喋りすぎアレは下向いて少し迷って走り出すだけで問題ないだとか、普段の映画なら絶対に文句言うようなところはありましたが、それは言ってもしょうがないジャンプの映画化なんだから
鬼滅だからということ以上に、映画として綺麗だからこその熱量のレビューでした
吾峠先生、映画に携わった方々、そして煉獄杏寿郎さん、ありがとう!!!!!



2020/10/30追記
ムービーウォッチメンで「賛」の意見としてメールを読んでいただきました!!
ありがとうございます!!