ストレンジラヴ

夕霧花園のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

夕霧花園(2019年製作の映画)
3.7
「外にある風景は常に決まっている。我々に出来ることは、どう見るかだけ」

1980年代マレーシア。判事テオ・ユンリンが告発される。彼女は第二次世界大戦中、日本軍によって強制収容所に連行され、妹を亡くした過去があった。戦後、妹の果たせなかった夢を叶えるため、終戦後もマラヤに留まっていた元天皇家付庭師・中村有朋(演:阿部寛)のもとで造園を学ぶ。次第に惹かれ合うふたりだったが、ある日有朋は忽然と姿を消す。同じ頃、マラヤでは英軍とマラヤ共産党の間で内戦が勃発し、戦時中に日本軍が隠したとされる金の存在が噂されるようになった…。
陳團英の同名小説を映像化した本作。少し設定が甘いのと無理があるように感じた。まず主人公ユンリンだが、戦争中に日本軍の拷問によって負傷しているものの特にそれが物語の鍵を握るわけでもない。つまりただ「日本軍は野蛮」というありきたりの描写に終始していたのは残念。もちろん日本軍が戦時中に東南アジアで行ったことを全肯定するつもりはないが、それを言うならばその前後の英国も同じではないか。日本だけ不当に貶められる筋合いはない。
また、本作では「刺青」が鍵を握り、有朋は嗜みとして自らの身体に刺青を施している。しかしだ、冷静に考えて刺青だらけの男を天皇家が庭師として雇うだろうか?このあたりは不自然に映ってしまった。
だがキャンベル高原一面の深緑など、映像美は素晴らしい。画面の明度を落とすことでアジア、そして日本の陰翳をたたえた画の連続に惹きつけられる。設定はともかく、有朋の美的センスはいい。
ひとりの日本人庭師が庭園に込めた想いとはなんだったのか。物事には事象のみが常に存在する。その事象をどう見るか、人生とは借景の連続である。