シズヲ

still darkのシズヲのレビュー・感想・評価

still dark(2019年製作の映画)
4.1
シェフを志してイタリア料理店の見習いになった盲目の青年を描く中編映画。只管にストイックな作品で、40分という尺の中で端的に無駄なく物語を描き切っている。抑制された演出とミニマムな舞台設定、固定視点のカメラワーク。一種の閉鎖性を感じるような焦点の絞り方によって、主人公が過ごす“人生”が淡々と映し出されていく。

明確な登場人物は「主人公」「先輩」「料理長」の三名のみで、彼ら以外に作中の視点は一切当たらない。“主人公の交流”と“仕事場での様子”を除く描写もバッサリ削ぎ落とされ、舞台はほぼ料理店とそこを起点にしたミニマムな人間関係を中心に完結。主人公の経歴も「料理人を目指してる」「ナポリタンの味に感動してこの店で働くことを決意した」ということ以上の説明は無く、とにかく彼が自己実現へと向けて黙々と下積みを重ねる姿が描かれていく。そこに過剰な描写も露骨な事件も割り込むことはなく、“目が見えない”というハンデを背負った主人公の日常的な所作の中に緊張感が滲み出る。所謂“外の世界”の描写を徹底して排除し、料理店へと通う“主人公の周囲”にのみ焦点を当てた構成が潔い。

盲目の主人公の直向きな姿と、彼を取り巻く先輩と料理長の人柄が本作のドラマを形作っている。いかにも軽薄そうに見えた先輩の気さくな人柄がとても良くて、要所要所で挟まれる主人公と先輩の友情は淡々とした作風の中でじんわりと染みてくる。限られた尺の中で飾らずに描かれる交流やエモーションが愛おしい。主人公の意欲を買ってフェアな姿勢で彼を鍛える料理長も印象深い。終盤の不手際に対しても甘やかさない“公正さ”が良い(そのうえで手を貸そうとしてしまう先輩の優しさが愛おしい)。作中において盲目の主人公が決して“特別な存在”として扱われないことが印象的。

振り返ってみれば、料理人という夢を起点に「挑戦、下積み、失敗、再起」というごくごくシンプルな物語が紡がれている。そういった筋書きの中で“盲目の青年”を主役に据えて、その自己実現へと向かう姿を淡々と描き出しているのが印象的。冒頭の場面と繋がる“履歴書”によって端的に描かれる“成長”と“再挑戦”。道はまだ暗くとも、前向きさに満ちている。
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