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戦争と女の顔のギャスのレビュー・感想・評価

戦争と女の顔(2019年製作の映画)
3.4
「戦争は女の顔をしていない」が原作。
以前に読んだ新聞記事に「コスパやタイパの求められる経済活動(いわゆる"仕事")は、子育てという活動とは全く相容れない真逆の立場にある」と書いてあってその通りだと納得したが、この映画もタイトルにあるように、戦争というものは女性の願うものの対極にあると思った。

つくづく、産む性から考える人間というもの、人間が生きるということ、人生、
そのどれにもまったく相容れないのが戦争だと思えた。

あと、舞台セットとしての第二次世界大戦直後のロシアの貧しい日常生活がとてもリアル。
赤と緑、特に緑の使い方が特徴的だった。

ネタバレ
戦闘シーンは出てこないが、戦争によって人生が狂わされる日常を描いている。男性はもちろん、女性も生きること育てることに多くの支障があり苦悩がある。
「全部戦争のせいだ」というのは英雄だった四肢麻痺の元兵隊の言葉だが、戦争さえなければ避けられた悲劇がたくさん描かれていた。冒頭から、イーヤの発作のせいで子供が死ぬシーンはあまりに悲劇的だ。

女性というのは産む性であり、そのせいでどうしても生きるため育てるための意識が高くなりがちだ。しかし戦争は真逆。
そこに駆り出された女性はやりたくないことをやる自分を「生き残るため」と無理やり肯定しながら生きるしかなく、どんどん歪(いびつ)になってゆく。
その歪さをマーシャが高官の女性にぶつけるシーンは唯一の戦争への反抗だった。言ってやったとばかりに思わず漏れる笑顔が印象的。
幸せになる今後の生活の夢想を2人で楽しげに話すシーンは、おそらくこの映画の中で一番幸福な場面だと思ったが、これが叶うとも思えないところが哀しい。戦争の後遺症で発作を抱えマーシャを愛するイーヤと、養子でない子供が欲しいが中絶を繰り返すうちに不妊となったマーシャ。互いに満たされる生活を見出すことはあるのだろうか。
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