槙

だってしょうがないじゃないの槙のレビュー・感想・評価

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仮設の映画館でポレポレ東中野を選択して鑑賞。

精神に不調があり受診したところ40歳をすぎてから自身がADHDであると診断された監督が広汎性発達障害と軽度知的障害である親戚のまことさんを取材したドキュメンタリー。日常を追っているのだけど、取材期間3年ということもあり生活のいろいろな場面が見られる。
最初、監督だけで撮影してて、セルフィの構図とかもあったりして若干荒い印象があったのだけど、途中から監督の仲間の池田さんが撮影に入ったことで映像に締まりが出て格段に見やすくなった。

60歳をすぎた高齢で独居の障害者をサポートする社会制度はもちろんあって、たくさんの人に支えられながら生活している。介助する人のほとんどが高齢なのにも驚いた。
「風に舞う白いゴミ袋が綺麗だから」という理由で衝動的に深夜にゴミを荒らしてしまったり、お金の使い方を相談している親戚に黙ってかっこいいスニーカーを買ってしまったり、エロ本を隠し持っていることをまわりの女性にとても心配されたり。日常所作への執着。周囲もまことさんを傷つけることのないように接しているからものすごくシリアスには見えないのだけど、やはり高齢の障害者が健常者の作った社会で生活していくにあたっての問題点は浮かび上がってくる。
ただ、作品としてはそういうのを深刻に社会に問うている、という感じではなくて。監督とまことさんの距離が縮まっていくにつれてふたり(と池田さん)のやりとりが高校生の放課後みたいな雰囲気でものすごく良かった。

七夕祭りで突然願いことを書くことになって見切り発車的に願い事を書いた後に他の人の短冊を眺めていたらこれ!という願い事を思いつくまことさん。監督が「じゃあこれ書きなよ!セカンドチャンス!」って言ってあっさりもう1枚短冊を書くシーンに痺れた。願い事って願うたびにひとつ、年中行事なら年に1回きりって決めつけてた自分の頭のかたさにびっくりした。何だって何回もやり直せばいいんだという当たり前のことをなんだか久しぶりに体感したような気がした。
槙