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聖なる犯罪者のyksijokiのレビュー・感想・評価

聖なる犯罪者(2019年製作の映画)
4.3
■3行サマリ
少年院から神学校に行くことを夢見ていた青年がひょんなことから司祭と勘違いされ、身分を偽り、なりすましてアル中の司祭の代わりに地区の司祭の代理を務めることになる。その地区ではつい先日悲惨な事故が起きていて…な話。

■感想
司祭のキッザニア映画で最高に面白かった。
顔だけ捉えた長回しのカットがめちゃくちゃ多くて、そこでの表情の語り具合がもう最高。ダニエル役のバルトシュ・ビィエレニアのなんとも言えない善悪両方が同居する顔が語りかけてくるものの多さに心を掴まれた。少年院あがりだからヤンチャするし、タバコも酒もやるし割とクソ野郎なのではと思わせといて住民と神に対しては真摯に向き合うところが矛盾してるけど憎めなくてもう…!という感じ。

冒頭の少年院での出来事と、ミサ、食堂からのタイトルカットでもうこれは只者ではないなと思ったけどそこから先も非常に良かった。彼自身が持つ過去や嘘、そこからくる陰鬱さと村全体に広がる陰鬱さと、教会やミサ、一見すると輝いて見える神の存在とが対比で描かれていて絶妙な居心地悪さがよかった。

ミサ前日にタバコ吸いながら聖書を頑張って読むダニエルも告解の部屋の中でスマホで告解のセリフを検索して読み上げるタニエルも完全に悪人なのに憎めない。聖職者へのリスペクトを感じた。本当の聖職者だって飲んだくれだし揉み消したり癒着したりする悪い奴もいる中で、司祭様、ありがとうと崇められる。ダニエルが行ってることは決して許されることではないながらも、自身の経験してきてることや過去を受け入れた上で神と対話しようとしている姿に心打たれた。彼なりに、彼だからこそ本当の聖職者になろうとしていたのかなと。

少年院時代の同僚がお前は人の心を動かす行動や言動を誰よりも分かってる的な発言がグッと来た。所々でのオリジナル説教の数々がどれも素晴らしかった。特に市長の前での説教、欲望という病に侵されている。より多くの人を支配したいと望みます。しかし小さき自分を恥じず、ひざまずきます。私は罪深きものです。謙虚になれますように。の説教がその前の車でのシーンからの即興で素晴らしかった。市長にとってはラップバトルのようなクリティカルヒットだったと思うし、その後のダニエルに起きる出来事と顔も含めていいシーンだった。

人間の持つ二面性をダニエル自身が演じながら、教えてくれていたと思う。事故に対するある種の真相を知ったときのダニエルの表情も印象的。善悪ははっきりと判断できるものではないというメタファーになっていた。。

ラストシーンもかなり衝撃的かつ良い終わり方だったし、司祭の娘も凄くいいキャラクターで所々でいい表情をしていた、ダニエルとの関係性も良かった。

陰鬱なのに街並みが綺麗で冒頭のバスが入ってくる長回しも、葬儀行進の街並を捉えたカットもどれも素敵だった。納屋のシーンも良かったし、何よりダニエルの顔を捉えたカットがどれも美しかった。何とも言えない表情と眼差しの真っ直ぐさが印象的。顔で語る映画が大好きなのでもう満点だった。

ーーー以下ネタバレセリフーーー

楽園は遠い場所ではなく、今ここにある。
赦しは忘却ではなく、なかったことにはできない
赦しとは愛です
犯した罪とは関係なくその人を愛することです


キャスト ☆☆☆☆☆ 4.6/5.0
ストーリー ☆☆☆☆☆ 4.3/5.0
演出 ☆☆☆☆ 3.9/5.0
映像 ☆☆☆☆4.0/5.0
音楽 ☆☆☆☆☆ 4.3/5.0
バイヴス ☆☆☆☆☆ 4.2/5.0
プロット ☆☆☆☆☆ 4.3/5.0
全体 ☆☆☆☆☆ 4.3/5.0
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