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聖なる犯罪者のmのレビュー・感想・評価

聖なる犯罪者(2019年製作の映画)
4.5
人間の複雑さ・美しさ、醜さを重ねに重ねたストーリーに圧倒された。すべてはエゴイズムだとも感じられるが、それだけでは無いのかもしれないとも思う。みんな相反したものを抱えている作品。

上半期最後に上半期一位を記録した作品でした!ありがとう、ヤン・コマサ監督!ありがとうバルトシュ・ビィエレニアさん!(あなたの演技力が凄過ぎてファン登録したよ!追うよ!)圧巻の、文句なしの、素晴らしい作品でした。

少年院で出会った神父の影響で熱心なキリスト教徒となった20歳の青年ダニエル(バルトシュ・ビィエレニアさん)は、前科者は聖職者になれないと知りながらも、神父になることを夢見ている。仮釈放が決まり、少年院から遠く離れた田舎の製材所に就職することになったダニエルは、製材所への道中、教会に立ち寄る。そんなストーリー。

まず今作のファーストカットが素晴らしい。ダニエルの置かれた状況を的確に描写し、彼がそれをどう感じているのかが数秒で理解出来る瞳。ヤン・コマサ監督の演出にバルトシュ・ビィエレニアさんの演技力がプラスされ、えげつなく引き込まれるファーストカット。
そして少年院で神父の話を聞くときに見せたダニエルのきらきらと輝いた瞳、ファーストカットとは相反したバルトシュ・ビィエレニアさんの瞳の演技に脱帽するばかり。
素晴らしい俳優さんが出てきた、ホント幸せ。彼の演技に魅了されたシーンを書き出したらキリがないからやめようと思うけど、悲しみや怒り、楽しさなど随所にバルトシュ・ビィエレニアさんの演技が光る。
水々しく、軽やかに、重苦しく、狂気的なダニエルに魅了されたのはバルトシュ・ビィエレニアさんが演じてくれたからだと思う。
「沈黙も祈りである」と言うシーンの迫力。
ダニエルのバックグラウンドもしっかり描かれていて素晴らしかった。

いつも思うのがイカれちゃっている人間を演じるのって簡単だということ。振り切ってしまえばいいのだから。
けれど、今作のダニエルのようにギリギリのラインにいる人間やイカれる手前を演じられる人は数少ないと思う。彼は、それを見事に演じ上げた、素晴らしい。

田舎で司祭だ、と嘘をついたダニエルを司祭と信じて村人たちから沢山の悩みや出来事が持ち込まれる。
そして村で7人もの命を奪った凄惨な事故があったことを知る。この事故がダニエルだけじゃない、人間という広い意味合いに【矛盾】というものを落とし込んでいくストーリー。

人間という難しい物体を鮮やかに生々しく描かれた今作。
村人たちの矛盾、優しさと醜さ、ダニエルの利己主義と利他主義(利他主義の中に見え隠れする利己主義)、宗教への賛美と風刺。相反するものがぎゅっと詰まっている。
大胆なストーリー展開と演者の演技(バルトシュ・ビィエレニアさんだけじゃなく、全ての人)で、難しくなりそうなテーマを美しくまとめあげている。
人間の本質ってなんなんだろうか。矛盾していて当たり前だと思う反面、こんなに鮮明に描かれると不思議に思えて仕方がない。

ラスト、ダニエルはあることをしたせいで血だらけになる。血だらけになりながら走り去る。ダニエルはどこに行くのか、行く場所はあるのか、行く意味はなんなのか、そんな事を感じ、余韻が残った。
希望と絶望を感じさせるラスト。最後まで相反していた。

とくに好きなシーンはダニエルの小屋が火事になるところ。
アクションシーンはカメラを縦横無尽に振り、かなりカッコいい魅せ方をしてくれている。

とにかくもう語り尽くしたことでいっぱいで、興奮した。
暴力的で賛美に溢れた作品。

ストーリー : ★★★★★
映像 : ★★★★☆
設定 : ★★★★★
キャスト: ★★★★★(マルタ、リディア演じた2人も素晴らしかった)
メッセージ性 : ★★★★☆
感情移入・共感 : ★★☆☆☆

cc/目の前にある事実を信じるな──
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