ぽん

私の知らないわたしの素顔のぽんのネタバレレビュー・内容・結末

私の知らないわたしの素顔(2019年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

夫に捨てられ恋人にも去られてしまった中年女性が、SNSで24歳女子になりすまして若い男とのバーチャル恋愛にハマるというオハナシ。
プロットだけ見るとジュリエット・美の趣がこんな役やる?って違和感おぼえるくらいトホホなヒロインに思えるが、そういうのではなかった。

クレール(J・ビノシュ)は心を病んで心理療法を受けている。愛する人に手ひどく裏切られたことで精神のバランスを崩した彼女は、心に開いた穴を新しい恋で埋める恋愛中毒になってたんじゃないか。
そうしてなりすましでゲットした恋人との危うい関係を、精神科医とのセッションの中で語るという回想の形でこのイビツな恋愛模様が描かれる。

大学教授という仕事があって子どももいるのになんでそんなリスキーなことする?と不思議に思うが、逆にこれってフランスっぽいのかも。個人主義ゆえに子どもが生きがいにはならないのかも。アムール(愛)のお国では仕事より愛すること愛されることの方が大事なのかなと。(ワーカホリックのアメリカ人とは違う気がする)

「話す」ことは問題を自分から「離す」ことになるらしい。自分自身を客観視することが治癒につながるのでしょう。でも見たくない現実から目をそらしている間は、問題に絡めとられたまま。現実逃避に過ぎない若い男との恋バナを得意げに話しているクレールに、主治医がウンザリするシーンもある。
でも、この偽りの恋愛はトーゼン哀しい結末を迎え傷心のクレールがそれを物語に書いたところから流れが変わる。この劇中劇がまた面白い。

最後に彼女はずっと話せずにいた真実を告白する。このカタストロフィが、まぁ想像はつくものなので弱いっちゃあ弱いのだけど、この時に彼女が言う「老いが怖いんじゃなくて、見捨てられるのが怖いの」「大人だって弱いのよ」というセリフはちょっと刺さった。

孤独が人を蝕む。そういう話だと思う。

ラストは色んな解釈が出来るというか、その後の展開をいかようにも想像できるのだけど、作り手は不穏な音楽で煽る。ジュリエット・媚の衆に舞い戻っちゃいそう。イヂワルだなー。
ぽん

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