くさむすび

辰巳のくさむすびのレビュー・感想・評価

辰巳(2023年製作の映画)
4.1
108分、一瞬も気が緩むことなく引き込まれた映画だった。筋書きはとてもシンプルなんだけど(悪く言えば平坦)、演出と演技が本当に素晴らしい。
序盤から「『ケンとカズ』の監督だなー」と思わせる遠藤雄弥と藤原季節のシーン。小路監督は今後も撮っていくと思うけど、多分見ただけで監督の映画だと分かるような雰囲気の映像を見せてくれるんだろうなと勝手に期待せざるを得ない。
それから演出が冴え渡っていた。不自然な説明台詞がなく、「腕のいいバラシ屋が必要なんだよ」みたいにさりげなく説明させるのも良いし、後藤剛範のキャラクターも詳しく説明されることはないんだけど、拳銃のフェイントでパーソナリティを表しているし、それが後半の行動原理への理解にも繋がっている。必要最低限の説明が良い。
森田想演じる葵は序盤から誰彼構わず唾を吐きかける人間だったのが、寝ている時に流れる涎の無防備さで関係性の変化を描いているのも見事。でもゲロを吐いた後にはしっかり唾を吐いているから、関係は変わりつつも彼女の芯はブレていないことを表しているのかなと思った。
そんな手腕の数々を引き立てる役者の演技も凄い。観客には馴染みのない世界を生きる人たちが強気な態度に出つつも、その中には人間的な弱さを見せる。例えば葵が辰巳にお願いする時の純朴な目や、辰巳が後藤に頼み事をする時の真っ直ぐな目。ここに彼らの人間らしさを感じたし、それに応える役者陣も凄い。特に森田想は最近よく見るけど、こんな役もできるのかと驚嘆する。
くさむすび

くさむすび