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辰巳のkeeeeetのネタバレレビュー・内容・結末

辰巳(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

2024
36/100

いくら予算が無かったとしても道端の半グレ拾ってきちゃダメだろ…と思ってたら演出家だったんですね…倉本朋幸さんは。

感想はメチャクチャ面白かった。
全シーン通して弛緩したような場面は全くなく、死と隣り合わせの緊張感がずっと漂っている。今年観た映画の中で一番くらい時間があっという間に感じた。

闇社会の大人と巻き込まれる子供が戦いの中で心を通わせ合いーー系の作品は『グロリア』やら『レオン』やら、ゲームなら『The Last of Us』やら先人の手垢はだいぶ付いているが、やはりストーリー・演者・演出がキレキレなら引き込まれるし熱くなれる。相棒同士の距離感も良い感じ。(やはりレオンあたりは距離感が恋人過ぎる)
個人的にこれ系のベストは『ボーダーライン ソルジャーズデイ』の殺し屋と麻薬王の娘。パサつき具合はアレくらいが良いが『辰巳』の二人は後半で割りと感傷的な要素が足されていくので、ちょい手前でブレーキ踏んで欲しかった、という本音もある。

白眉は冒頭のシーンだと思っている。
藤原季節演じるシャブ中の弟と揉みくちゃになりながらの罵り合い。「あのクソ親父がどうの~」とか「今更兄貴ヅラしてどうの~」とか、この兄弟のバックボーンがその後に語られることは無いが、この一幕だけで充分、どんな人生だったかは伝わる。何より辰巳の自分事としての暴力はこのシーンのみ。以降は葵の仇討ちに付き合う形なので、ある程度理性を保ちながら戦っている。そのため剥き出しの暴力と感情の爆発が一番極まっている最初の兄弟喧嘩が迫真で素晴らしかった。

とにかくキャストは全員最高。
“そのスジの奴ら”にしか見えない。
主人公辰巳演じる遠藤雄弥は、端整でありながら少しくたびれたルックが只者じゃないフェロモンを醸し出しており圧倒的な存在感がある。
京子と葵が口喧嘩おっ始めるところや、中盤で車に乗り込んだ後、這いずる葵を置いていくかどうかってところなど「ああもう!しょうがねぇな」って表情が抜群に良い。

作中屈指の口の悪さを誇る葵役の森田想は絶妙に小汚なくて、何より眼が変幻自在で凄い。普段の生意気な荒んだ目、夜の襲撃で姉を庇いながらも竜二とバチッと視線が合ったときの目、辰巳に姉との思い出話をするときの澄んだ目(思い出自体は酷い)など、こちらの目を釘付けにしてくれる。
辰巳は恐らく葵と弟を重ねているのだが、まず森田想と藤原季節の雰囲気が似ており、別にどちらかがどちらかに寄せている感じじゃなく、ナチュラルにそうであることが凄い。どこまで計算されたキャスティング、メイク、演技指導なのかは分からないが間違いなく辰巳を突き動かす大きな説得力になっている、

一番好きなのは出荷前の牛こと後藤。
葵をボコるとき「辰巳…早く止めてくれ…」という内心を想像すると可愛らしく見えてくる。
偽物の銃で葵を脅す茶目っ気や、何やかんやで頼み事を断れない優しさが強面との良いギャップになっている。

敵役もみんな天晴れ。
兄貴・佐藤五郎のラストの哀愁、松本亮の冷徹な佇まいもさることながら、やはり作品の狂気を一身に担う倉本朋幸の竜二はエグい。あの伸びるヨダレがイヤ過ぎて怖過ぎてたまらん。
作中一番好きな台詞が序盤で竜二が粛清した奴の死体を辰巳がバラすシーンでついた悪態。
「ババアの財布みたいに盗んだんだぜ!?ババアの財布だぜ!?」という念を押されてもあんまりピンとこない比喩が面白すぎる。

ジャンルはノワールに分類され、バイオレンスな場面が大半を占めるが、作品自体はかなり親切な設計になっていると思う。まず物語はシンプルで全てチンピラ達の内輪揉め。単なるやってやられての繰り返しなので、虚悪の陰謀が渦巻いているとかではない。暴力描写も血は飛び散るが俗に言う「ゴア」まではいかないと思っている。辰巳の死体処理シーンも別に切断する様をじっくり映す感じでもない。そして殺した証明が欲しいので基本は綺麗に殺すことを重要としている。従ってアウトレイジ的な「殺人大喜利」要素は皆無。性描写も特にない。ハードな題材でありながらも老若男女問わず観れる…はず。

辰巳が葵に銃を教えるときに言う「気持ちを入れすぎると失敗する」は、辰巳自身が葵に気持ちを入れすぎていることを暗に示していたと思う。実際見捨てるチャンスは何度もあったが、弟の姿を重ねてしまい、無意識に葵へ気持ちを入れすぎていたと見ている。その結果、命を落としているのだから教えは正しかったと言えるが、そのお陰で葵は生きている。

ヤクザのスローガンといえば「義理人情」だが、まず人間自体「義理人情」を切り離しては生きられない。ヤクザが「義理人情」を重んじているのではなく、ヤクザも一人間に過ぎないよ、というだけだと思っている。

モヤモヤする点としてはヤクザ以外の人間が居なさすぎる。辰巳・葵ペアが主人公風吹かしているけど、カタギからしてみれば全員同じ迷惑なチンピラ共なわけで。一般人視点が無いのはもう意図して排除してるんだと思うけど、警察の存在も匂わせず、閉じた世界で完結しちゃうのはファンタジーが過ぎると感じた。
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