Omizu

サウス・キャロライナ/愛と追憶の彼方のOmizuのレビュー・感想・評価

3.7
【第64回アカデミー賞 作品賞他全7部門ノミネート】
バーブラ・ストライサンドの監督第二作。原作はパット・コンロイの『潮流の王者』で、アカデミー賞ではニック・ノルティらがノミネートを受けたがバーブラは監督賞はおろか主演女優賞にもノミネートされなかった。

作品賞候補の紹介の際、前々年の主演女優賞受賞者『ドライビングMissデイジー』のジェシカ・タンディが「なぜバーブラが監督賞にノミネートされなかったのか理解できない」と言った。

確かに前半は少し強引な展開が目立つ不倫ものかな、と思っていたんだけど後半けっこうびっくりした。強引なところが見られなくもないけど十分監督賞に値する作品だと思う。

恋愛もの、となっているが本筋は『普通の人々』、いや『ヘレディタリー』と共通すると言ってもいい暗黒ホームドラマ。

主人公トムが捻くれているのも、双子の姉が自殺を図ったのも、そして兄が死んだのもあんな衝撃的な事実があればなるほどとなった。単に不倫ものではなく、実は傷ついている内なる痛みを共有する者同士が惹かれ合ったのだと納得がいく。

欠点はかなりある。トムがスーザンを好きになる過程、そしてスーザンの息子ベルナード(バーブラの実の息子)がトムに懐く過程がすっ飛ばされていて感情移入できない。またスーザンの夫が最初から最後までクソ野郎なだけでキャラクターとして薄っぺらい。そして最大の欠点は主人公たるトムが無意識に女性差別していること。フェミニストのバーブラがなぜこんなキャラクターを描いたのか理解不能。特に最後いいセリフ風に言う「俺は周りの女たちを幸せにしてやれる」というのが「はぁ?」となった。「周りの人」でよくない?なんで最後の最後まで女性に上からなんだ。

しかし力業でこの物語をさばいたのは評価できる。かなり強引だし無理のある話なんだけど、バーブラのストーリーテリングと叙情的な演出によって十分引き寄せられる作品になっている。

ただ不倫して両方とも分かれてくっつくのではなく、それぞれの場所に戻り、しっかり立ち直るというのがよかった。ベルナードとトムの関係も最初は唐突なものの、実に爽やかでいい。

アカデミー賞っぽい風格もある堂々たる作品。あまり知られていないのがもったいない。欠点もかなり目につくけどトータルではなかなかいい作品だと思う。
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