emily

NOVO/ノボのemilyのレビュー・感想・評価

NOVO/ノボ(2002年製作の映画)
4.4

パリのオフィスでコピー係をしているグラアムは記憶を保つことができない重度な記憶障害。彼の働く会社に新しく派遣社員としてやってきたイレーヌは彼の不思議な魅力にひかれていき、やがて二人はベッドを共にし、彼の病状を知った後も、新鮮な気持ちで恋愛できることを楽しんでいた。しかし彼の中に彼女の記憶は全く残らないことにやはり不安を感じ始めるイレーヌ。次第に記憶が戻りはじめ、彼の過去が徐々に明らかになっていく。

シリアスな役柄を天然で素朴な表情と色気で演じるグラアム役のエドゥアルド・ノリエガ。途中何度かスペイン語をしゃべるシーンもあるが、全編流暢なフランス語をしっかり操っている。イレーヌ役はアナ・ムグラリス。二人の等身大の交わりがエロスだけでなく、純愛の可愛さとドラマがある。全裸のシーンも多いが、ねっとりとして生ぬるい空気よりは、少女と少年のみずみずしさがあり、そこに交わるミステリーが程よいバランスで、スタイリッシュな映像と音楽とともに、爽快なテンポを刻んでいく。

二人のドラマだけでなく、彼らを取り巻く女上司サビーヌとの絶妙な上下関係と醸し出す空気感。妻イサベルと彼の友達フレッドの利害関係から導く行動の数々。そこに記憶にないとわかっていながらも、足繫く登場する息子アントワーヌ。様々な感情がぶつかり合い、シリアスなドラマをラブストーリーで包み込み、深みのある物語をスタイリッシュかつフレッシュに展開している。

後半は自分探しの旅につながり、二人の女性との出会いから徐々に自分のアイデンティティを見つけていく。記憶がないということは、愛するという感情につながるのは難しい。感情が生まれてもリセットされ、一からまた感情を構築していかなくてはならない。それは毎回会うたび新鮮で、ひと時は楽しいかもしれないが、やはり絆を求めてしまうが人と言う物だ。記憶の積み重ねが愛を生み、喧嘩して悲しい思いがあってこそ、その愛は育っていくのだ。しかし同時に始まった物には必ず終わりがあるのも事実である。深いつながりを持ちながら、気持ちはいつも新鮮でいる。両方が備われば最強なのだ。
必要ないことは忘れていけばよい。
必要ないものは脱ぎ捨てればよい。
いつだって身軽で、いつだって新しい自分に生まれ変われる。
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