けーすけ

この世界に残されてのけーすけのレビュー・感想・評価

この世界に残されて(2019年製作の映画)
3.6
2020/12/07(月) cocoの特別オンライン試写で鑑賞。https://coco.to/

1948年、ハンガリー。産婦人科医であるアルドはある日16歳の少女クララと出会う。家族をホロコーストによって失ったクララは精神的に荒んでしまい食事もろくに摂っていない状態であった。心配をするアルドと話していくうちに、クララは彼に父性を感じ心を開いていくのであった。クララの大叔母であるオルギもアルドをもう一人の保護者として受け入れ、歳の離れた二人の同居生活が始まったのだが・・・







戦後のハンガリーはソ連の支配下にあったため、いまだ不穏な空気に包まれたままであり、ソ連人に目を付けられると連行されて消されてしまう、といった事があったらしい。

そのような終戦後のまだ混乱している世の中で出会った二人。戦争やホロコーストについては深く掘り下げず、二人の関係性にフォーカスした作りでした。


アルドに出会った頃のクララは両親や妹を失った混乱もあり、周りにひたすら反抗的な態度を取っていた状態。片やアルドは感情を表に出すことなく、常に落ち着いた雰囲気でクララの話を聞き、丁寧に接する。そんなアルドに安心感と父性を覚えてクララは心を開いていくのですが、見ていて非常に危うい交流なんですよね。

クララは淋しいのか、一人寝かされていたソファからアルドのベッドへ行き一緒に寝る。アルドも気が付くが特に咎めずそのまま一緒に寝たり。
「お父さんと同じ匂いがする」と言って抱き着いたり、アルドの髪を毛づくろいするなど、クララの気持ちは明らかに父性や家族を超えた愛情の雰囲気がビシバシと…。

アルドもクララと過ごしていくうちに娘以上の感情になってしまったのか、ダンスパーティーに行くクララに「男には気をつけろ」と異常に心配したり、帰りの時間が気になって仕方がないといったシーンも。


そんな二人がともに暮らしていて、普通なら何か起きそうなのですが、本作では多少思わせぶりながらも直接的な表現はなく、ひたすらプラトニックに描写されております(すごいぞアルド!)。


42歳と16歳、親子の年齢差がある二人が世間から見られる印象は、やはり現代以上に周囲から怪訝に見られる事が多かったのでしょう。アルドはとある決心をします。その後、ある真夜中に起きたとある出来事が決定的なとなったのですが、そこがなんとも切ないシーンの一つ。


果たしてアルドの選択は正しかったのか。エンディング間際に見せる彼の表情が切なくこみ上げるものがありました。




アルドを演じたカーロイ・ハイデュク。ちょこっとジェイソン・ステイサム風味を感じ(頭の事は言ってないからね!)、クールな雰囲気の中に見せる笑顔や優しさがめちゃステキでした。本作でハンガリーアカデミー賞最優秀男優賞に選ばれたとか。


クララ役のアビゲール・セーケ。序盤の目の下にクマができるほど病んでて弱々しい女の子の雰囲気から、アルドに出会って元気に、そして女性になっていくさまがとても美しかったです。今後要注目の女優ですね。





年齢差ある男女の二人の話というと生々しいものを想像しそうですが、そのような部分は無く、少しドキドキさせられながら観られる男女の心の繋がりを描いておりました。面白かったです。


[2020-178]
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