Ricola

雪の女王のRicolaのレビュー・感想・評価

雪の女王(1957年製作の映画)
3.6
アンデルセンの童話を原作とした作品であり、絵本のようなかわいらしいタッチで描かれる一方、氷や自然の描写が幻想的で美しい。
あたたかな春の風景や人々の心と、雪の女王と彼女の住む冷酷な世界が対比的に表現されている。


語り手の妖精が傘をこちらに向けてぐるぐる回すことで、物語世界と「地の文」の世界を行き来することができる説話構造になっているのが面白い。
例えば妖精の語りによって幕が上がり、そこから最初に物語に入るときには、妖精がこちらに向けて傘を回しているうちに赤っぽい屋根の連なる町並みへと徐々にショットが移行していく。
また、いくつもの星だか雪の結晶だかがキラキラと光るショット自体が、ぐるぐると回転していくうちにいつの間にか妖精の回す傘に着地する。

ここで注目すべきは、大きな本らしきものが妖精の近くにあるのに、その本を開くどころか触れることもないという点である。妖精が我々に読み聞かせをするスタイルで物語が進行するかと思いきや、ある意味の催眠術的な手法で物語へと誘うのだ。

この作品の結局の山場は、少女ゲルダが雪の女王にさらわれた少年カイを探すために出た冒険の道中だろう。
花が咲き誇る庭へとたどり着くゲルダの主観ショットが突如挿入されることによって、ゲルダひとりの冒険が始まったことを改めて感じさせるようだ。
ゲルダは旅のなかでさまざまな人たちと出会い、その出会いに感謝し成長していく。おとぎ話あるあるな展開だが、その出会う人たちと彼らの衣食住の違いから、ゲルダの異文化交流がいきいきと描かれている。

とはいえ、やはり特に美しいと思わされる描写は女王の住む氷でできたお城である。全面が氷であるため、光が反射してまるでオーロラのような多彩な光がゆらめいて見える。
この非現実的な世界の冷たさは、特に生命が息吹く春のあたたかさと真逆であり、不安感や孤独を感じさせる。
それは雪の女王が抱く本心であるかもしれないが、その点は全く言及されない。女王は超人的な存在であると位置づけられ、彼女はもはや「現象」を擬人化したものだとも考えられそうである。

王道なおとぎ話の展開に心あたたまりつつ、幻想的な世界観に引き込まれる作品であり、アニメーション表現の豊かさと独特なタッチが楽しかった。
Ricola

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