くるぶし

すばらしき世界のくるぶしのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.4
人生って、でこぼこしているほうがきっとおもしろい。
三上という男の、そのでこぼこさが愛おしくて、やりきれなくて切なかった。

役所広司演じる三上は、冒頭の描写を見るかぎり、近所にいたら絶対に関わりたくないタイプだ。暴力で事を収めようとするところ、気にくわない助言には声を荒げて反発するところ。正直、怖い。後先を考えないやりたい放題さは、手のつけられない子どものようだ。
当然ながら、社会はやり直しのスタート地点にさえ立たせてくれない。

けれど、その無邪気なまでの純粋さと実直さで、どうにも放っておけない存在になっていく。窮地に立たされる三上を、だれか救ってくれやしないかと希望を抱きながら見てしまう。
その時点でまんまと術中にハマっているのだけれど、西川監督はただの傍観者である観客の、そんな浅はかな望みなどお見通しだった。
やがて観客は矛盾の壁にぶち当たる。
「まちがっているのは、三上なのか?」

見てみないふりをして迎合する。清濁のみこんで折り合いをつける。そうでなければ生きていけないというのは、たしかに正論だ。
けれど、本能を抑えて歯を食いしばり、偽物の笑顔をみせる三上を見て、自分は号泣するしかできなかった。
まっすぐにしか生きられなかった男に、忖度をさせる世界が「すばらしい」といえるのだろうか、と。

これから青くて広い空を見るたびに、大きく手を振って歩く三上を思い出すだろう。そして時限爆弾が作動するように、泣いてしまいそうな気がする。

西川監督はまた厄介な作品を残してくれたもんだ。
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