映画における「化学変化」とはまさにこのこと。
シナリオ上の言葉が役者の口から飛び出して、予想もしなかった驚きと感動を呼び起こす。
脚本を映画より先に読む機会があったのですが、脳内で描いていたイメージを遥かに超える衝撃がありました。
三上が刑務所を出て、バスの中でいきなり「ざまみろ」っていうところ。完全にアドリブですね。しょっぱなから、こんな面白いヤツと2時間過ごすんか、悪くないじゃんって心がワクワクしてしまう冒頭でした。
心が子供のまま育ったおじさん…と可愛らしさが出るや否や、肩書きらしくめちゃくちゃ怖い。人情深いし恩義に熱いけど、いつ糸がぷつりと切れるか分からない。危うさがある。役所広司さんさすが。
「社会の不条理」を描いた作品、普通ならシリアスで暗くて退屈してしまいがちなテーマなのに、実際観ているとなんだかお茶目で滑稽で、元気が出てくるし。
でもどんなに過酷な人生でも、意外とけろっとしちゃう時、笑けてくる時もある。それが真実で、その絶妙さを切り取った監督と俳優陣に感激です。
役者さんたちの天才的な「面白い」芝居の選択と生きた演出のすべてが、よりいっそう作品の核にある悲しさと暖かさを沁み渡らせてくれる。
最後のほうは観ているだけでつらくなる。人々が差し伸べる手、金銭、三上を想うが故の助言が、三上を殺していく。涙が止まらなかった。
無言で社会に適応しようとする三上のシーン、ト書きではこう書かれています。
「人間性を、捻じ曲げる」。
漠然としていて、でも確実に存在する「社会」
それを個人まで解体して、丁寧に魅せてくれた物語でした。
この「すばらしい世界」に生きづらさを感じる人に観てほしい。