岡田拓朗

すばらしき世界の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.5
すばらしき世界

この世界は生きづらく、あたたかい。

2021年最も公開を心待ちにしていた西川美和監督の最新作。
同監督作でとても好きな傑作である『ゆれる』『永い言い訳』に並ぶ、もしくはそれ以上の傑作だと感じた。

映画やドラマ、そして現実で起こっているニュースなどを目にすると、たまに自分は本当にこういうことが起こる社会と同じ世界に住んでいるのだろうかと思うことがある。

それは自分がそれだけ世間一般や社会の常識とされることの犠牲にならないような生活を送ろうとしているからなのかもしれない。

本当に素晴らしい世界とはどういう世界なのか。自分が生きたい世界はどういう世界なのか。
そういうのを考えれば考えるほど、社会とできるだけ断絶していたいと思ってしまうのはなぜだろう。

この映画には自分が抱いていた社会への違和感がしっかりと描かれた上で、その社会とは真逆の観点として、三上の生き様と三上を取り巻く環境から「すばらしき世界」とは何なのかを考えさせられる。

日常を生きているとあらゆる選択が迫られるが、自分が出したい選択が必ずしも社会、はたまた組織や相手に求められるものと同じであるとは限らない。
それが倫理的に見て(ルールを逸脱してでも)正しいであろうことやそうするしかないことだとしてもだ。

そんな選択が小さいことだったら、誰かの犠牲になることじゃなかったら、そこまで思い悩まずに選択ができるだろう。
でもそうじゃなかったとしたらどうだろう。

本作において「我慢」というのが一つのキーワードとして挙げられていたが、この我慢というのが第三者から倫理的に見て明らかにどうにかしないといけないと思う事柄にも目を瞑らざるを得ないのが、僕たちが今生きている社会であることが示唆されているように感じる。

それが他者を助けるためのものだったとしても、我慢となってしまうのも腑に落ちなくて、でもそれが現実であるから、正義感の強い人ほどしんどく、生きづらくなる。

優しい心を持っている人が、誰かを助けようとすることで、それゆえに罪に問われることも、社会から切り離されてしまうこともあるのだ。

そして、そういうことが起こり続けるとさらにその人は社会で生きづらくなり、居場所をなくす悪循環に陥る。

そんなこの世界は確かに生きづらい。
でも、そういう要素ばかりではないとも信じたい。

そこで「すばらしき世界たるあたたかい社会」の一面も、三上を支える人たちの存在によって描かれていく。
ある意味の希望としてではあるかもしれないが、どんな人と関わるかによってその人から見た世界は大きく変わる。

誰でも人に対してレッテルを貼ってしまうことがあると思うが、認識が誤っていた次にとる言動が大事で、それによってつながりが生まれ、好循環が生まれていくことにもなる。

それは三上が正しいことをしようとしていたからでもあると思うが、その人をちゃんと見て知ることで、レッテルを貼ることなくポジティブな気持ちで交わることができるようになるはずで、そういう関係が良くも悪くも人を変える。

世間の目とかそういうのを気にせずに人と人とが関われるようになれば、そして貶めるような人との関わり方がなくなれば、それこそ真に「すばらしき世界」がそこにはできあがるのではないか。
そんな願いを強く感じた作品でもあった。

不条理なことがまかり通ってしまう社会の中で生きないようにするということは、そこで苦労している人たちを見捨ててしまうことになってしまわないか。
たまにそんなことを考えたりもするが、手を伸ばせる範囲が狭くてどうにもできないのがもどかしい。

多分自分はこの社会の中でうまく生きられてる方だと思うけど、それゆえに(上記のように)悩むこともあって、そんな悩みすらもなくなるくらいの世の中になったらなと強く思った。

誰かにとっての特別な日常や幸せに感じることが、誰かにとっては普通になってきて幸せを感じられなくなっていて。
三上の姿と自分の今を比較しながら、そんなことをも感じた。

色々思い巡らせてこの文章書いてて、改めて傑作だなと。
一人でも多くの方に観て欲しいです!

P.S.
役所広司さんの二面性が別人のようにすらも見えてしまう演技がやっぱり素晴らしすぎて怖さすら覚えるほど。
まだ序盤ですが、間違いなく2021年最優秀主演男優賞でしょう。
仲野太賀さんも本当によかった。
あの役は他の方だと思い浮かばないくらい仲野太賀さんだった。
岡田拓朗

岡田拓朗