マチ

すばらしき世界のマチのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
3.3
・人生の大半を刑務所で過ごした元ヤクザは、自転車を買い与えられると、手を振りクルクルするのか。
・身内が警察に囲まれているときに、草葉からひょっこり現れて危険を知らせようとするだろうか。
・六角精児のギターと歌声のボリュームは、下の部屋に迷惑かけないのか。


そんなことはとても些細な問題。
この映画は二人の俳優に圧倒させられるだけの作品だ。それくらい言いきってしまいたい。

途中、何度か三上正夫と役所広司の区別が曖昧になった。
役所広司の姿をした三上が、あちらの世界に戻ってしまうかもしれない不安感と、こちらに帰ってきてくれた安堵感の双方を、行ったり来たりさせられた。

この感情に臨場感を持たせているのが、仲野太賀だ。
彼が三上を見つめることで成り立つ感情がいくつかあった。
自転車でクルクルしているときも、彼が嬉々とした様子で見つめるから、細かいことは気にできなくなった。
それよりも、三上にこの世界にいてほしい、という気持ちにさせられてしまうのだ。

背中を流すときの眼差しもよい。役の心情を表現しようとせずに、役としてとらなければならない態度のほうに忠実である。感情を観客に向けて指示せず、伝播させようとする。スクリーンを隔てて観ているこちらも彼と一緒に背中を流していた。

役所広司と仲野太賀。平成、令和の名優アンサンブルを意識するとより感動できる作品だと思う。
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