律

すばらしき世界の律のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.8
人間って何だろう。正しくきれいに生きるってなんだろう。善って何だろう。悪ってなんだろう。偽善ってなんだろう。いろんな疑問が頭の中を浮遊してぐるぐると、ただひたすらに旋回してる。
 小学生の頃に確かに学んだ道徳。プリントが配られて、三十本くらいある傍線の上にただひたすらに自分の信じる正義を書き連ねた。自分たちで意見を発表しあって、最終的に先生の言う正義、世間一般において正しいとされる正義を学ぶ。困っている人には積極的に手を差し伸べる。相手の気持ちになって考える。とか。
 でも、私たちが生きてる世界って、社会って、道徳で学んだことを発表する場では決してなくて、むしろ正反対の場。挙げだしたらきりがないくらい、息苦しくて、生きにくくて、醜い世の中。個々人の徹底した孤独と絶望だけが共感と連帯を生むことができる、そんな世界。
 でもきっと、偽善の中にも善は存在しているのだろう。互いに傷つけあったからこそわかる痛みがあって、苦しみがある。弱くて脆い人間だから、自分のことを見捨てずに、背中にそっと手を添えてくれる人間が一人いるだけで空はどこまでも広く、自分の可能性はどこまでも大きく膨らんでいく。

 素晴らしき世界―。善と悪。偽善と道徳。怒りと喜び。私たち人間が生きる社会そのものの美しさも、醜くさも、全て正しい尺度で縮小された、そんな映画だった。
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