人からの前情報には目をつぶり、本屋で平積みにされている原作本には触れぬようにし、ギリギリで鑑賞にありついた。
特有の、ざらっとした空気がずっと。
西川美和作品は主人公自身に心の内を語らせない。でもスクリーンの中の、生身の人間である主人公は、思い、悩み、喜怒哀楽を感じて生きている。まるで知り合いみたいに。
見る人の想像力に委ねられている、それがすごい。
今回、特筆すべきは主人公を演じる役所広司の演技。心の動き、葛藤が声に出していないのにビシバシくる。
生い立ちによる少年のままの部分、怒りがふつふつと湧いてくる時、葛藤の時、すべて表情で語る。
スクリーンの中の人が泣くたびに泣くもんだから、しんどいしんどい。
涙腺、そろそろ縫い閉じたい。
泣く映画が良い映画、というわけではないが、本当にすばらしき世界であった。
キムラ緑子が役所広司に向けて言う台詞がとてもよかった。
とても自然体な梶芽衣子も。
西川美和監督は、人をものすごく観察しているし、それを映し出すのが上手だなあ。
こんな監督、なかなかいない。
すばらしかったです。
