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すばらしき世界のOMUのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.5
刑務所での長い懲役を経て社会復帰した人間がぶち当たる社会という壁にどう向き合っていくかを描いたおはなし。

西川美和の白黒つけない人間描写が私はすごく好きなのですが、今回もまた、というか今まで以上にぴりっと冴え渡っていて、だからこそ余計に心にずしん、と重くのしかかりました。

「ああすればいいに」「こうすればいいのに」と、言うのはすごく簡単なことを実際に行動に移すことの難しさ、耐えて耐えてもがき続ける時間のとほうもない長さに絶望する心の痛みは、境遇や状況違えどどこかしらで誰しもが経験することの様な気がします。

役所広司演じる主人公の男は、決して褒められた素行の持ち主ではないし、直情的でたまに話が通じなそうなところなど、決して愛らしいと言う言葉で収めてはいけないようなキャラクターですが、彼の立ち向かおうとするものやこころそれ自体は、ものすごくシンプルで純粋なものの様に思いました。
だからこそ、つのだが途中で駆け出すとあるシーンはまるで自分を観ているようで。私だったらあのまま観ざる聞かざるを貫き通してしまうんじゃないか、とか、かなり苦い気持ちになりました。

コスモスの花を持って帰るか?と聞かれるシーンがとても印象に残っています。
ああいう言った本人にとってみればどうということはない、さりげない優しさがたまにあるのも、ああ社会だなあと思います。

役所広司をはじめとした、全役者の熱量と演技が素晴らしいです。

いい映画、みたなあ!とかそういう爽快な気分にはまったくならないのですが、今後もずっとこの映画について考え続けるんだろうな、と思うそんな作品でした。
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