ただのすず

すばらしき世界のただのすずのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.0
自分の身を守る為に、背を向け、耳を塞ぐ。
疑い、悪意を向けるのも人なら、厳しい生活の中、自身を割いて気遣い、共に喜び、泣いて笑って、手を差し伸べてくれるのも、同じ人。
西川監督の映画でいつも描かれている根本が温かく、また救い上げられたような気持ちになった。

前科10犯、再犯を繰り返し人生の中の28年間を刑務所で過ごした人間というだけではなく、捨てられても母を愛し、弱い者に優しく、真っすぐであるが故に加減を知らない、それでも人が思わず寄り添って助けたくなる、反社会の人間というレッテルで見るのではない、三上という人間が何より魅力的だった。役所さんしか演じられないだろうと感じた。

社会は息苦しく窮屈で我慢の連続なのに見返りはとても少ない、自由を求めて空は見上げるばかり。嫋やかで純粋で守らなければいけないような風情のコスモスは、本当は雨風に倒れてもたくましく咲く生命力のある花であるらしい、だからきっとあの嵐の後も彼は人に支えられて乗り越えただろうと思えた。
自分を温かく迎えてくれる人、自分の為に涙を流してくれる人が同じ空の下で生きている、苦しみも与えるが同時に喜びも与えてくれるこの世界は、やっぱり、泣きながらも、すばらしき世界であるとしか言いようがない。