藻類デスモデスムス属

すばらしき世界の藻類デスモデスムス属のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.0
20mシャトルラン


朝、小学校の体育館の前を通る時、鉄琴に似た電子音と、ばたばたいうシューズの音が聞こえてきた。電子音はりんとした響きでもって、ドからドまで正確に一段ずつあがっていき、なんなんていう感じのはもりでドーと鳴ってから、数字が宣告され、また一段ずつさがっていき…の、のぼりおりをくりかえす。この音をきくと、なんだろう、すこし切なくなりますね。ばたばたが先にやんで、電子音だけがはりきった音楽の先生みたいに鳴っていて、ドー、数字、ばたばたー、ラ、シ、ド…とこの電子音をききながら、子どもたちはなにを思う。このわずかの休みが、やがてもう反復横跳びみたいに、足をついたらすぐに走りだすようにせなあかんくなるのに、はじめのころは体育館の開放された大きな扉から空の青さをみる余裕があって、できるだけ疲れないようにまたできるだけ体をゆるめるように、いったりきたりして、まだまだいけることを逐一確認し、次のドーを待つというそれはなんかもう、びりびりに破いてしまいたい感じに切ない。シャトルランの日には緊張してお腹が痛かった。なんでそんなものにお腹が痛くならなあかんのか。疲れたらさっさとやめればいいと、そう思えないものにとってはこの項目はエグい、他のテストは、学力テストも含め、時間とか回数とか終わりがあるのに、出しきれなくてもそれでおわるのに、これだけは自分で終わりを決めなければいけない、という自己責任制で、そうなると出し切らずにおわることができない、徴税人がきっちりとるのと同じくらいの正確さで出せというのに、はじめのころは好いお天気で!のどかに、ちゃららんとレベルアップの音がして、少しずつ早くなっていった、「限界を決めるのはお前だ」という受験シーズンのフレーズみたいなことを春とかにさせて、それでなんだ、全国平均とか出され、最近のこどもたちは運動能力がさがってきてますね、とか言われ、そしてなんだ、なんだったんだ、教育的にもいいのか。一度したら来年まですることもない、わけのわからんその年中行事風の仕置き、一項目が、すごく嫌いで、すごく好きだったというのが致命的に切ない。まるですばらしき世界だとでもいいたげな明快な音階の間、20mの間をいまも子供たちは走っている。