オリジナルを撮り続けてきた西川監督が、初めて佐木隆三の小説『身分帳』を原作として作り上げた作品なのだという。
主演の役所広司が、素晴らしかった。
穏やかで優しく、
時に衝動的で、暴力的。
そして、時に色っぽく、可愛らしくもある。
そんな主人公の多面的な表情一つひとつを、
魅力的に演じ切った俳優としての力。
それに圧倒された。
人生の大半を堀の中で暮らした主人公が、
外での暮らしにどうにか馴染もうと苦戦していく様子を描いたこの作品。
ラスト近くの展開は、本当につらい。
私たちが住む外の世界は、
本当に正しく美しいのか?
堀の中と外。
その違いとは?
彼の手に、最後まで握りしめられていた花束。
母の愛を、自分が愛されていた事実を、
求め続けた人生。
素晴らしき世界。
西川監督は、それを、
彼の人生への「はなむけの言葉」だと言った。
彼の死を聞いて、アパートに駆けつけた人たち。
号泣する青年。
彼らに、あなたは何かを、
確かに手渡した。
誰の人生も、素晴らしい。
素晴らしき人生。
そう、この世界は、
素晴らしき世界だ。