THI

すばらしき世界のTHIのネタバレレビュー・内容・結末

すばらしき世界(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

苦しい映画だった。

三上がとにかく純粋で真っ直ぐ。

僕たちはこの世界で生きていくために、みんなそれぞれどこかしら狡くなっていくし、どこかで何かに蓋をしている。
それは道端でガラの悪い若者に絡まれているおじさんの姿かもしれないし、職場の上司や同僚が話す陰口かもしれないし、関係ない人から向けられる(もしかしたら時にそれは自覚のない)悪意かもしれない。
あるいはそれらに本気で憤った自分自身かもしれない。
この世界で、「まとも」に生きるために、日常生活で、少しずつ見て見ぬふりを、気づかぬふりをしている。これはもちろん、僕もそうだ。

三上はそれをしなかった。正しくないものを正しくないと憤った。
でもそんな三上にとって、この世界は、ちょっと窮屈だった。
窮屈な世界で生きるために、自分の気持ちを抑えこんだ。介護施設の人たちの口から出る悪口に、愛想笑いをして乗っかった。
苦しかっただろうなあ。

僕は最初、三上を見ていて「ちょっと(怒りを)我慢すればいいのに」と思った。
でもそれが正しいことなのか?
正しくないことを、ものを、正しくないと怒ることが本当は正しい。のかもしれない。
この世界で生きるために、ちょっと狡くなった僕にとっては、面倒事に巻き込まれないために見て見ぬふりをすることが、正しかった。
だから僕は三上に「我慢すればいいのに」と思った。

この世界はまっさらに白いわけじゃない。正しくないことに蓋をして、回っている。濁りに気付かないふりをして、回っている。
濁りを受け入れることが正しいのか?
潔白な世界であるべきだと、信念を持って歩むことが正しいのだろうか?

三上を応援して、就職を祝ってくれる人がいた。死んで、泣いて悔やんでくれる人たちがいた。
最後に映し出された青い空に浮かぶ「すばらしき世界」のタイトル。
すばらしき世界とは、なんだ?
THI

THI