ピースオブケイク

すばらしき世界のピースオブケイクのネタバレレビュー・内容・結末

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

やっと、遂に、とうとう観た。そんなに引っ張らなくても良かったけど、私がフォローさせて頂いている尊敬する沢山の方々の熱い、そして素晴らしいレビューの数々。これは気合いを入れて観なければ、でも期待し過ぎて肩透かしだったらどうしよ?などと思いつつ鑑賞。そう言った不安は全くの杞憂だった。

やはり役所広司が素晴らしい。映画冒頭から圧倒的な演技に引き込まれ、どんどん感情移入させられる。彼が演じる元殺人犯三上は、素直かつ実直で、彼なりの正義感に従いわかり易く喧嘩する、つまり、もの凄く単純で喧嘩っ早い性格だ。近くにいるとちょっと怖いかも知れないが、つい好きになっちゃうし、つい応援したくなる。そういう三上の愛すべき役作りが、役所広司の演技はもちろん、印象的な数々のエピソードや舞台設定、脇を固める俳優たちの名演技でしっかり形作られている。

これは実在の人物をモデルに書かれた小説がベースになっているとのこと、ということは、仲野太賀演じるテレビディレクター津乃田の小説なのかな?仲野太賀は、この津乃田の三上に対する心の動きを見事に演じ切っている。最初は嫌々引き受けた取材から、三上を知るに連れその魅力と、更正に向けて奮闘する姿に共感し応援する気持ち、そして垣間見てしまうヤクザの本性に一度は恐れをなして取材を諦めるも、最後は再び全力で、かつ仕事抜きで応援するに至るまでの気持ちの変化が、何の疑問もなく見て取れるように理解できた。風呂場で三上の背中を流すシーン、そして最後の三上のアパートでの慟哭が素晴らしかった。

その他の脇を固める俳優陣の演技も素晴らしかった。三上の身元引受人庄司夫妻を演じた橋爪功と梶芽衣子の無償の愛、お役人っぽさを醸し出しながらも、何とかルール内で三上の更正を全力で後押ししてくれるケースワーカー井口を演じた北村有起哉、最初は元殺人犯という色眼鏡で見ていたけど、仲良くなり本気で三上の更正の手助けをしてくれるスーパー店長を演じた六角精児、等々。

そして、三上が一度、更正を諦めかけて、昔世話になった地元福岡の親分を頼り帰省するシーン、白竜演じるこの親分さんと、おかみさん役のキムラ緑子、彼らの義兄弟を想う見返りを全く期待しない優しさが素晴らしい。ヤクザの世界は、ある意味、血の繋がりのある兄弟以上の関係なのかな、もちろん、そんな映画みたいな話ばかりじゃないんだろうけど、おかみさんが三上にかけた最後の言葉が刺さる。「うちらはなるようにしかなりません!やけど、あんたはこれが最後のチャンスでしょうが!娑婆は我慢の連続ですよ。我慢の割に大して面白うもなか。やけど、空が広いち言いますよ。三上さん、ふいにしたらアカンよ!」こっちの世界に二度と戻って来るなという優しい激励の言葉と、映画の最後に映し出される「素晴らしき世界」というタイトルの背景にある広ーい空が重なる。

ところで、逃げることも勇気、勇気ある撤退、全てに関わるほど人は強くない、逃げてこそまた次に挑める、など、応援してくれる優しい人たちの言葉を胸に、介護施設でいじめられている障害のある優しい職員を助けなかった三上の我慢は正しかったのだろうか…。