金春ハリネズミ

すばらしき世界の金春ハリネズミのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.3
ようやく見たんです。

どうでしょう。
こう、素敵な美談として素直に感動します。
生きゆくことへの確かなエールをもらえます。
役所さん主演に紐付けて、「Perfect Days」と併せてみるとかなり満たされるかもかも。

いつも通り原作は未読なんですが、
本作は「美談」さ加減がちょっと鼻につくというか、物語としてきっちり作られすぎてることが、かえってなんだか上手く言いくるめられたような居心地を残して、自分でも心外ですがモヤモヤしてしまった。

なんなんでしょう。
三上が完璧すぎるんですかね。
ラストの着地を考えても、なんだか映画全体が三上を神格化させようとしてるみたいに見える。
まぁこれははっきりいって役所広司さんの高すぎる仕事ぶりも一助してるように思えます。
Perfect Daysもそうでした。
役所広司が演じると説得力ありすぎてそのキャラクターはなんとなくカリスマ感が出てしまいますね。
というかこれまでそういうキャスティングされすぎてる。
彼の取り扱いには要注意です。

あとよくよく考えると作家志望の津乃田くんの存在が微妙に違和です。
仲野太賀さんの手腕でほんま見事に馴染んでるような顔してますが、第二の主人公がこの作品に果たして必要でしょうか?
主体は三上だけでいいはずなのに、作中同じくらいのウェイトを課せられてるのが彼。
するとどうやらこの津乃田という男はやはり映画のオリジナルキャラみたいで、長澤まさみと合わせてどうも周りと噛み合ってないな〜と思ったワケです。

おそらく佐木隆三さんが原作を執筆するに至るまでの経緯に対する西川監督なりの敬意が津乃田に集約しているのかもと思ったりします。
あとは三上の分身のように動かすことができるキャラクターだから、時短にも良いのかも。
彼の立ち回りは、さしずめキリストに遣えるパウロ。
津乃田が騒げば騒ぐほど、三上がキレッキレの魅力的なカリスマになる構造になっていて、
本来開かれるはずの本作のテーマ全体が、三上という絶対的存在に全て吸収されてしまっているような感じ。
「だって三上だから頑張れたんでしょ。三上は強いよ別格よ。」
って思えちゃう。

あと、これは原作がどうなのかわからないのですが、三上の怒りの矛先に若い男性を置くことが多かった気がします。
盲目で無知な人間=若い男性。
言いたいことは分かります、僕も若い男性ですけど、若い男性見てて腹立つときあります。
でも、その偏った描き方が、若い男性の1人として、あんまり気持ちのいいものではありませんでした。
この社会が心地よく循環しないのは、盲目無知な若い男性たちが原因だとでも言いたいのでしょうか。
人生をいちからやり直そうとするおじさんのラストチャンスに水を刺すのは、若い男性たち、とでも言いたいのでしょうか。
そんなつもりは毛頭ないと思いますが、あまりにも展開が形式的、記号的すぎたのはちょっと痛いです。
この作中に出てくる、どうしようもない若い男性たちが悪行を働くことで、やはりより一層、三上がヒーローに、カリスマ的人物に見えてしまう。

ただこの構図は、若い男性=過去の三上自身の投影だとするなら、なんだかそれはそれでありな気もしてくる。

とはいえ、本作の核となる「人を想う」気持ち、これは胸が痛くなるほど伝わってきました。
なかなかどうして生きづらい世の中だけど、お互い助け合い支え合えるようなセカイになればなと願いますね。

三上を役所広司さんじゃない人が演じていたら、この映画どうなってたのかなと、妄想したくなる。

僕にはちょっと丁寧で上品すぎたんですかね。