シーケー

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像のシーケーのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

いわゆる佳作的な映画だとは思うけれど、古美術商とヘルシンキになじみがある自分にとっては心動かされる部分がすごくあった。

古美術商的な視点に立つと、彼らの商売の力は目利き、実力、客筋の3つだ。ここでいう実力は高い物を買えるかどうか、つまり資金と胆力である。オラヴィは目利きはそれなりにありそうだが、実力としては資金が相当厳しく、客筋はあまり良くない。商売が斜陽なのも納得。だからこその目利きをいかしたこのディールが面白いところでもある。
出てくる金額については、オークションハウスの敷居が高くなくて、お店の商品もお客さんも自然に買える値段であって、レーピンもそこまで高くはないのかなと思ってしまった。1万ユーロとか12万ユーロはまあ大金だけど、フィンランドの年金で暮らしていくことを考えると、あまり人生を変える金額ではないのではないか。でもそこが誇りとかそういう意味で大切なことはすごくわかる。

ヘルシンキの街的な視点での面白さもある。まず秋のどんよりとした天気がねらいどおりの鬱鬱とした雰囲気を出している。街の人みんながややダウナーになる感じを思い出す。
また何度も出てくる老舗のベーカリーカフェekbergと、孫世代との接点的な意味のある中央駅のバーガーキングが対照的で面白い。あのバーガーキングは、バーガーキングなのにアールデコの古くておしゃれな空間というミスマッチがテーマによくあっている。孫が撮る動画で主人公そっちのけでズームされる後ろにいた女の子が普通に現地の子っぽい感じもよかった。
絵を渡しにいくクラリオンホテルの下品な高級感も印象が強い。たしかにスウェーデン系のフィンランド人は金持ちが多いが、別に悪い人が多いわけではないとは思う。
そして特にヘルシンキらしさを感じてしまったのはほぼラストのシーンで、バスの窓が汚れていて、低い日の光に照らされて白く輝いているところだ。秋の日常に少し美しさが感じられる風景。それがレアのやるせない気持ちにすごくマッチしていてすばらしい演出だと思った(単に汚れていただけで、そのような演出ではないかもしれない)。

という風に、メインの娘や孫とのストーリー以外でもいろいろ感じさせてくれるし、うまくいったりダメだったりする人生らしさがとても良い映画でした。