Punisher田中

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像のPunisher田中のレビュー・感想・評価

3.9
長年、美術商を営む老人は頭を抱えていた。
あるオークションで発見した無名の絵画が明らかに有名な画家による名画だからだ。
しかし、贋作という可能性も捨てきれず、落札する金も持ち合わせていない。
そんな所に、半ば強制で職業訓練を引き受けざるを得なかった孫・オットーがやってくるのだった。

たまにすんごく良い作品を掘り当てて、ついため息ついちゃうことありません??

今作がまさにその作品で。
何故今作の事を1ミリも知らなかったんだろうか...
1人の老人が打つ人生最後の博打、とても苦しくて愉しくて....そして愚かで。
当方、ギャンブルはかなり嫌いなのだが、このラストディールは凄く愉しく鑑賞出来てしまった。
とは云っても人生はギャンブルだ。
安定なんてものは無いし、何にしろ終わりは来る。どこでどう、いくつ博打を打っていくかが道をわける鍵。
今作はその博打一つに人生を賭けていく過程とそれによってもたらされる物と失う物、周囲の様子等が秀逸に描かれており、馴染みの薄い美術商という職業が関係するものの美術に対する前知識などが一切いらない懐の深さが良い。

舞台がフィンランドの首都、ヘルシンキなのも良い。
カラッとした気候が今作のショットをよりシンプルでフラットな物にしているからどのシーンも凄く綺麗で、The 北欧なテンションと語り口ともマッチしている。
何より良かったのが重い話だけど、重くなりすぎない軽快なテンポと間を取る所はしっかり間を取る構成の巧さ。
美術商の駆け引きがメインではあるが、そこに介在するヒューマンドラマが凄く良くて、特にグラントリノを彷彿とさせるクソジジイ(主人公)と孫の描写がバディ物でもファミリー物でもあって良かったし、常に緊迫した状況下だったからこそ得られる希望あるラストは是非今作を観て色々と感じて欲しい。