Sari

ゲンスブールと女たちのSariのネタバレレビュー・内容・結末

ゲンスブールと女たち(2010年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

2021/06/05 DVD

タイトルの直訳『ゲンズブール 英雄的人生』
画家、ジャズ・ピアニスト、シャンソン歌手、作詞・作曲家、映画監督など様々な顔を持つマルチアーティスト。フランスきっての美女と浮名を流した稀代の伊達男セルジュ・ゲンズブールという認識が日本においては強いこと、また本作でも女性が次々に変化していく構造により日本語訳『ゲンズブールと女たち』というタイトルが付けられた。

恐らく「ゲンズブール または出口なしの愛」(マガジンハウス出版)というゲンズブールの存命中に出版された本人公認伝記をある程度忠実に再現しながら、フランスのコミック、バンド・デシネというグラフィック・アニメーションを駆使したファンタジーを挿入しながら独創的に見せたユニークな作品。

※以下コアなファン以外には興味のないであろう、メモ書きを。

ロシア系ユダヤ人であるギンズブルグ家が、ロシア革命の混乱から逃れてフランスに移住した少年時代から描かれる。冒頭は少年リュシアンが海岸でふたりきりの少女に「手を繋いで良い?」と訪ねて「醜い子は嫌」と断られる。外見に抱えていたコンプレックスが後の偉大なセルジュ・ゲンズブールという破天荒な伝説を生み出すことになる重要なシーンで、この海辺のシーンは、後に何度もゲンズブール家の原風景として登場する。

クラシックを好む厳格な父親は、将来リュシアンがジャズピアニストへ進むことを望み、厳しい指導がされコザック式の体罰も与えたという。ナチ占領下に脅かさるフランスにおいて少年時代のリュシアンが描かれるが、彼の内気な性格を補うように、もうひとつの強気な人格をデフォルメした被り物のキャラクターとして登場するのは、デル・トロのダークファンタジーの世界に近い。
少年リュシアンにとって絵を描くことがいかに重要か、女性のヘア・ヌードを上手く描けることで周囲の少年らから人気を博した事なども丁寧に描かれる。
そして青年になったリュシアンに飛躍し、顔のパーツは似ている俳優を起用しているが(特徴的な鼻と耳は特殊メイクだそう)弱々しい印象で少し滑稽なゲンズブール。
絵画アカデミーでダリの愛人(フィクションの幾つかの女性のイメージを合わせたような女性)と思しき後の妻となる女性と出会い、絵を描く為にピアノ弾きのアルバイトをしている日々の中で、ボリス・ヴィアンらと知り合い意気統合、フランスのレオタード(赤青黄緑)を着た4人のコメディアン、フレールジャック兄弟に絡まれる中、デビュー曲「リラの門の切符切り」が生み出されるジャンプ・カットのような描き方が面白い(笑)
2番目の裕福な妻に車で送られ、ジュリエット・グレコに逢いに行く。グレコ役のアナ・ムグラリスがとても美しく目力がグレコ本人に似ている。映画はこのように女性との恋愛と共に名曲が生まれる構成で、ゲンズブールの代表曲「ラ・ジャヴァネーズ」が最初に此処で誕生する。そして、かなり端折られイエイエ・ブーム真っ只中に、プロデュースする事になるフランス・ギャルとの出逢い。ゲンズブールと共演した曲のMVがロングヘアだった為そこからの引用か、ロングのギャルに違和感が。ここはボブ・ヘアのギャルにしてもらいたかった。プロデュースした「夢見るシャンソン人形」、そして会話の流れ上「アニーとボンボン」を歌うかと思ったが「ベイビー・ポップ」を歌うのが残念。サビの声の張り上げ方も、実際のイエイエ・シンガーをイメージしたのかも知れないが強すぎる
そして、またかなり飛躍しゲンズブールの暮らす裕福なマンションにセックス・シンボル、ブリジット・バルドーが登場。レティシア・カスタの美貌を再認識すると同時に、舌足らずなBBのモノマネ演技の上手さに感動。この不倫の逢引き中に実際一晩で書き上げたという「ボニーとクライド」「ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ」に加え、「コミック・ストリップ」が劇中では追加されて3曲が生まれる。バルドーと付き合って醜男コンプレックスが無くなったと言うほど、バルドーとは恋愛ピークの描かれ方がされている。ギンズブルグ家の特に父親がよく出てくるのも、大スターのバルドーが実家にやってくるという夢の設定も面白い(笑)
そしてアントニオーニ「欲望」に出演していた時期、イギリスからフランスにやってきたジェーン・バーキンとの運命的出逢い。
(このバーキン役の女優は撮影後に亡くなられた)アラン・ドロン、ロミー・シュナイダー共演「太陽が知っている」の撮影に向かうバーキンの撮影場所まで着いてきて、アラン・ドロンに嫉妬していたのは知らなかったが、バーキンがゲンズブールにプレゼントした愛犬ナナも出てくる。
ゲンズブールの落書きで有名な自宅の壁も、落書きを無地に修復(何か被せたのかも)綺麗な形で出てくる。クロード・シャブロルが映画プロデューサー役で出演。そして煙草と酒の人生が祟り、ゲンズブールは心筋梗塞で倒れるが、入院した病室で酒と煙草を持ち込む。
パンクロックの時代に相応するように、晩年のゲンズブールの音楽性も、破天荒なパンクな生き方へ拍車がかかり、バーキンとも不仲に。フランス国歌をレゲエに乗せたフランス革命の曲、過激な『ラ・マルセイエーズ』の録音シーンを再現。ゲンズブールのソロで最大のヒットとなり、右翼派から攻撃を受けるなど話題に事欠かなかった。

そして最後のパートナーとなるバンブーとの出逢い。「ラヴ・オン・ザ・ビート」のMVでは、ビキニで歌わせているが、テレビ出演時にはボトムはデニムでトップレスで踊らせている。黒髪で東洋的なルックスのバンブーとゲンズブールとは非常に退廃的なカップルだった。

晩年ゲンズブールのトレードマークのサングラスをかけて煙草を吹かす横顔のラストシーンから
「亡きルーシーへ」
の手書き文字でエンディング。

ゲンズブールは二度目の心臓発作を起こした1991年3月2日にこの世を去る。
正式には葬式らしい事はしておらず、霊柩車の後へ姪や甥っ子が後に続き、墓地には錚々たるメンバー、ミシェル・ピコリ、バンブー、ジェーン・バーキン、カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・アジャーニ、フランソワーズ・アルディなどが集結。シャルロットが体育座りしていたのが印象的だったとか。

コメンタリー:
サエキけんぞう(ミュージシャン)川勝正幸(エディター)梶野彰一(フォトグラファー)

私は2001年3月2日ゲンズブールの没後10年目命日に、丁度パリに旅行中だった。
パリから持ち帰った、10年記念特集のゲンズブール表紙の雑誌、CDアルバムは宝物だ。
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