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おちをつけなんせのQTakaのレビュー・感想・評価

おちをつけなんせ(2019年製作の映画)
4.3
「進路、妖怪じゃだめか」
女優”のん”が、その有り余る創作意欲で取り組んだ映像は、しっかりとした世界観を持った映画でした。
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映画とともに制作された映画製作ドキュメンタリー「のんたれ」と映画の両方を鑑賞。
映画「おちをつけなんせ」を見て、「のんたれ」を見て。
もう一度、「おちをつけなんせ」を見ました。
これは、一言で言って「面白い」。
面も裏もどこを見ても面白い。
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映画の冒頭、なんだかわからない集団が踊りながら闊歩する。
通り沿いに雲型の書き割りと変な集団(妖怪達)。
もう、このシーンだけで凄い!と思った。
この映画への向き合い方、見方を掴んだ気がした。
こうなると、もう映画に引き込まれて、その世界に身を任せるだけだ。
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こういう、少し突拍子もない表現で、その世界観を押し付けてくる辺りは、何かフォーマットに囚われることのない自由さを感じます。
一方で、大女優桃井かおりとの掛け合いシーンは、圧巻でした。
そして、一つ芯の通ったストーリーを組み立てようと言う意気込みも感じられました。
繰り返し出てくる”天狗”と”獅子”そして”妖怪”。
それぞれが、のん(主人公”留美”)の心の様子を表している。
それは、時に怒りで、時に戸惑いや葛藤だった。
この、心の表現は、なんとも面白い。
欲を言うなら、この表現をもっとうまくできていれば、もっともっと面白くなったのかもしれない。
それは、主人公の留美(のん)をより面白くサポートしてくれたかもしれない。
そこは、ちょっと欲張りなのかな。
物語は、高校生がこれからの進路を考えなければならない頃。
その不安と葛藤を、家族の風景を交えて、そして遠野という土地の魅力も交えて表現しようとしたその試みは、圧巻の出来だったと思う。
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その製作過程のドキュメンタリー「のんたれ」
いわゆるメイキングともちょっと違う。
完全密着映像だ。
それは、この映像制作にあたって彼女を支えてくれた人々の姿をふんだんに織り交ぜた映像だった。
制作に入る前にベテラン監督達に会い、制作が始まってからは、自ら監督と主役で頑張っていた。
そして、スタッフ達との共同作業が、のんを悩ませ、あるいは助けられていた様子が見られた。
その映像にこそこの映画の醍醐味が隠されていたように思う。
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『是枝裕和』
是枝監督がのんにアドバイスを送っている。
・映画を作る現場における意志の疎通の問題
・スタッフ間の共通認識を持つための必須の手順がある。
作りたいと言う意志が、製作過程で共有できなければ物作りはできない。
映画は、一人で作るのではないと言うことだ。
・「作り手が作りたい物を作る」というのは映画とは違う
「映画はもっと社会的な物」とも言っている。
つまり、「映画は、作家の自己表現であり、一方そうでない部分もある。」
自分の心情を吐露するだけのものでは、作り手がすっきりするだけ。
それは、”表出”。自己表出でしかない。
自己表出をいかにして”表現”にしていくか。
映画には他者がいる。誰かが見るための映画だと言うこと。
思いの丈を映像化するだけではだめだ。
それでは、”表現”になっていない。
これらの是枝監督の言葉に納得しました。
いかに”表現”し、いかに伝えるか、それが映画製作の醍醐味であり、力量を問われるところだろう。
自分もその力量に魅了されたいと思っている。
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『片渕須直』
・起承転結の”承”って何?
それは「物語の紹介」であり、「この映画のルール」を表す部分。
物語の展開としての「意表」とは、あらかじめ決められたルールがあるから、それを裏切る展開が「意表を突く」ということになる。
だから、登場人物の紹介の”起”の後の「こんな映画ですよ」という映画の紹介の”承”が重要になる。
物語の組み立て方は、理路整然としていて、わかりやすい。
そして、このように最初にレールを敷くことで、視聴者を置いてけぼりにすることなく最後までストーリーに載せてくれる。
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『桃井かおり』
名女優にして監督もこなす御大の存在が大きかった。
のんにとって最良のキャストだったんだろうな。
・「映画の神様が付く」
「いろいろ起こっても、それはギフトだと思えばイイ。」
怖がらずに挑戦しろってことだったんだな。
「一番怖いのは、パターンにハマって、よくあるやり方で、よくある物を作ってしまうこと。」
大女優を前に、「よーいスタート!」と言うのんの姿。
この女優をどう活かすのか、必死になって作り出す撮影現場のエネルギーが気持ち良かった。
そして、始まった撮影は、もう止められない。
のんは、桃井さんにおばあちゃん役を託した。
のんの作り出したおばあちゃん像は、点と点でしかなかった。
そこに生身の女優が動き出すと、一繋がりになって、生きた人物像が浮かび上がる。
役柄が、命を得たように。
面白い物を目の当たりにした気がする。
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『蔵下穂波』
監督のんの親友にして、この映画制作においては、頼れるパートナーだった。
この蔵下さんの現場把握能力がなかなかの物だった。
よく見て、よく考えて、よく支えていた。
こう言う存在は、製作現場に必須だなと思った。
あるいは、それは普通、現場を経験する中で培っていく物なのかもしれないが、彼女の場合、これまでは現場では女優で居たはずだから、この現場を仕切る能力は持って生まれた物なのかもしれない。
そんな力を持っているなら、これからもそう言う現場力もありなんじゃないかなと思った。
映画の現場には様々な人が必要だ。
そんな現場を見られるメイキングは、いつもワクワクする。
そして、このメイキングドキュメンタリー「のんたれ」で一番ワクワクしたのは、蔵下穂波の姿だったかもしれない。
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映画「おちをつけなんせ 」は、実に面白い映画だった。
とても居心地よく楽しめる映画だった。
メイキングドキュメンタリー「のんたれ」は、映画の醍醐味を隅々まで見渡して見せてくれる映像だった。
映画が作られる現場、そこで奮闘する人々、その笑顔も、その苦悩も、全て映画のためだった。
そんな映画のために奮闘する姿が、本当に頼もしかった。
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